いよいよ08年も終わり・・・というわけで、本サイトをご高覧いただき本当にありがとうございます!今後も皆さんに応援いただけるよう内容の充実に努めていく次第でありまーす。と真面目くさってみましたが、マジに最後の最後なドンケツ(汗:別に色んなメディアの「アルバム・オブ・ジ・イヤー」発表を待ってたわけじゃなく、のんびりしてるうちにこんな時期になってしまいました)、Audiobunny編集担当:坂本麻里子の年間ベストで今年のファイナル・ポストとさせていただきます。ベスト・トラックは、アルバムのリストに入らなかったアクトに限定してあります、念のため。それでは皆さま、Wish You A Wonderful Pop Life in 2009。
★Album40★
Atlas Sound/Let the Blind Lead Those Who Can See But Cannot Feel(Kranky)
本ソロおよびディアハンター新作(後述)と、アトランタ夢想者ブラッドフォード・コックスの活躍ぶりは今年の「インディ裏キング」の名に値するかも(?)。生楽器にサンプラー、エフェクト、プログラミングを何層も被せたアブストラクトな宅録作で、音のパレットに繰り出されたいくつもの色彩とリズム、面相筆・スプレー・コラージュなど多用なサウンド・テクスチャーとの融合が聴きどころ。盤全体にまぶされた燐光の輝きと不健康な甘さが妖しくも不思議に心を惹きつける。心をオート・パイロットにして聴く音楽。
Baby Dee/Safe Inside The Day(Drag City)
カレント93やアントニー&ザ・ジョンソンズとのコラボでも知られる前衛パフォーマーのサード。ハープの弾き語りと言ってもジョアンナ・ニューサムのそれとは異なり、ブレヒト、ランディ・ニューマン、ルー・リード「Berlin」を思わせるデカダンな哀歌&シアトリカルなセンスはキャバレー・ミュージック~トーチ・ソングの系譜に連なるもの。しかし自己耽溺やダークなナルシシズムよりヒューマンな温かみとチャームが漂ってくるのがこの人の懐深さ。ボニー・〝プリンス〟ビリー&マット・スウィーニー(プロデュースも兼任)、アンドリューWKら曲者がこぞってバックアップ。
Beck/Modern Guilt(DGC)
ベックとデンジャーマウス、夢の共演が実現。両者の共通項である60~70年代ロック愛(特に欧プログレ、サイケ)が盤の随所に幻想的な雲霞を吐き出しているのはもちろん、モダン・テクノ/エレクトロニカ・サウンド・スケープの未来的な光沢等、フェティッシュなまでに美しい音作りは聴くたび酔わされる。楽曲のクオリティとストイックなまでの完成度の追求(アルバム本編はたった10曲。メジャー・レーベルだとクレームがつきかねない短さですね)が光る、端整かつ隙のない1枚。
The Black Angels/Directions To See A Ghost(Light In The Attic)
バンド名がすべてを語る、テキサスのバチ当たり暗黒ガレージ・サイケ集団。1作目はモノトナス~一面的で物足りなかったが、ジャケットを目に痛い蛍光色に切り替えての本セカンドは独(クラウト・ロック)英(スペースメン3)米(ブライアン・ジョーンズタウン・マサカー)からトランスの髄を吸い込み、無間のダーク・トリップを生み出している。15分近いラスト「Snake in The Grass」が秀逸。爆音で聴かないと効きません。
Blitzen Trapper/Furr(Sub Pop)
ヴァン・ヘイレンみたいなバンド・ロゴに退かないで~!というわけで、ジャガー・ラヴと並び、モット・ザ・フープル~70Sキンクスを思わせるいなたくバンカラなグラム/ロックンロール味を08年に鳴らしたご機嫌な作品。エレ・ポップまで含む凝った音~エレファント6勢を思わせるガレージでやんちゃな過去の作風も好きだけど、ハーモニーや生音の質感、メロディ作りの上手さを前面に押し出したこのアルバムの肩肘張らないポップネスも捨てがたい。放っておくとディテールをひねり過ぎて無闇にこんがらがってしまうマニアックな人達じゃないかと思うので、これくらい風通しが良くて正解かも。
Bon Iver/For Emma,Forever Ago(Jagjaguar)
ウィスコンシンの山奥で、失恋の痛みをひっそり切々と綴ったアルバム――という本作のキャッチフレーズに思わず手が伸びたし、文字通り胸疼く光景を喚起する抒情的なメロディとウェットなトーン、そっと吐き出すウィスパリング・ヴォイスの儚さには涙。単なるBGMとして聴いているとスーッと流れてしまうほどさりげない作りだが、インスト部の奥行きやハーモニーの妙などハマると深い1枚。
Born Ruffians/Red,Yellow and Blue(Warp)
小気味良いポップを掻き鳴らすマイティなカナディアン・ポッパーのファースト・フル。ヴァイオレント・ファムスのミニマリズムと跳ねまくるフック、パワー・トリオならではのぷりぷりしたグルーヴを元気に鳴らしてくれた。ギターにしろドラムにしろクリーンで辛口な音のキレのいいアンサンブルとタイトな演奏が光るライヴ、ぜひ多くの人に体験してほしい。
Boston Spaceships/Brown Submarines(Guided By Voices Inc)
思わず「More Than A Feeling~」と歌い出したくなるバンド名だけど、ソロでレコードをリリースしてきた元GBV:ボブ・ポラードが久々に始めた新ユニットはトリオ編成。ザ・フー味のヒロイックなリフ、完成度よりフィーリング重視のレコーディング・・・と何も変わっちゃいないと言えばそれまでだが、この人の書くロックンロールの天真爛漫さはやはり唯一無二。故に聴いてしまう。
Bowerbirds/Hymns For a Dark Horse(Dead Oceans)
アコーディオンとアコギで織り成される黄昏色のサウンドがなんとも古風かつ美しいフォーク・ポップの逸品。地味ながら癒される歌声とふくよかなメロディは、M・ウォードにも通じるタイムレスな味。
Crystal Stilts/Alight of Night(Slumberland)
後述のヴィヴィアン・ガールズおよびザ・ペインズ・オブ~と並び、まさか!という感じで筆者の中に眠っていた「C86」魂を08年に呼び起こされた――がなぜかノスタルジアに響かないのは、時効だから??エコーどっぷりのガレージ・サーフ・サウンド(JAMCからニヒリズムを取り除いたっつーか)にぶっきらぼうな歌唱、ボヘミアンでやる気のなさそうなトーン・・・インディ大手になる前のクリエイション(それもBiff Bang Pow!とかThe Revolving Paint Dream、Jasmine Minksあたりの地味目なバンド)やサラ好きにはぐっとくるバンド。
Death Cab For Cutie/Narrow Stairs(Atlantic)
スタジオ・アルバム6枚目にしてこの瑞々しさって、いったい・・・?と興奮&感動せずにいられなかったDCFC最新作。エピックなギター・ロックから甘酸っぱいインディ・ポップ、哀感あふれるバラッドまで、4人が育んできたケミストリーと成長、持てるポテンシャルを万遍なく鳴らした会心の1枚だと思う。「Cath」、ほんと泣けます。ベンに惚れ直した。
Deerhunter/Microcastle(4AD)
アトラス・サウンドと並んでランク・イン、究極のアンチ・ヒーロー(?)ブラッドフォード・コックス率いるアトランタのネオ・サイケ集団。2枚組というヴォリュームにも仰天だが(あんた働きすぎやで・・・)、無限大に夢幻なアトラス~の拡散性に較べポップ・ミュージックとしての枠組みをフォローしていて、実は人懐こくさえあるメロディ(スタンダードや古いブルースが好きそう)に引き寄せられる。子守唄から悪夢にすりかわっていくごときリンチ的感覚も麗しい。「Nothing Ever Happened」は抜群。
Department of Eagles/In Ear Park(4AD)
グリズリー・ベアのメンバーでもあるダニエル(ダン)・ロッセンの本家ユニット。1作目はラップトップでランダムなアイデアをコラージュしたインドア・ポップの佳作だったが、フル・アコースティックに切り替えたこのアルバムはヴァン・ダイク・パークス~バーバンク・サウンドを彷彿させる芳醇&緻密なアレンジにひなびたフォーク・メロディをブレンド、物憂いアメリカ幻想を掻き立てる。別世界の美。
Fleet Foxes/Fleet Foxes(Sub Pop)
今年もっとも頻繁に聴いた「心の友」アルバムの1枚。このシアトル発ニューカマーの辞書にEVILという単語はないのだろうか・・・?と感じるほど無垢で新雪、ソウルフルに心のままに掻き鳴らされるピューリタン・ポップ絵巻(ブライアン・ウィルソンが聖歌合唱隊とフォーク・ロックを作ったらこんな感じ?)には聴くたび心をリセットされる思い。筆者の知人による「純粋に、ただただ美しいレコード」との形容は言い得て妙で、世俗ではなく天空に向けて音を手向けるごとき目線と志の高さも清々しい。サブ・ポップの新たな看板に成長してくれることを祈ってます。
Fucked Up/Chemistry of Common Life(Matador)
カナダから現れた疾風怒濤の凸凹パンクス。ハードコア~オリジナル・パンクの血湧き肉躍るエネルギーにプログレやサイケの空間性をブチ込んだアンセミックな音作りでぶっちぎりつつ、狡知なメディア操作~戦略性~ユーモアも抜かりないこのバンドの野性と知性の同居からは目が離せない。ライヴのカタルシスは毎回保証つきなので、ぜひ来日公演に足を運んでモッシュ・ピットに飛び込み、ピンク・アイズのパンツをズリ下げてやってください。彼はたぶん、怒りません。
Glasvegas/Glasvegas(Columbia)
近年の「シューゲイザー再評価」文脈で語られそうなグラスヴェガス。リヴァーブてんこもりの音&モー・タッカー直系ドラミングという音作りに同郷JAMCとの比較が出るのは不可避だろうが、サングラスで涙を隠した熱血漢:ジェイムス・アランの直情エモ声(しかもごっついグラスゴー訛り。プロクレイマーズすら思い出します)で滔々と描く英ワーキング・クラス・ライフの侘しさには鼻水と涙を禁じえない(ちり紙くださ~い!)。そんな灰色の日常だからこそ、ロマンとエピックな光を求める轟音ギターが切実に響くのだろう。フィル・スペクター愛が炸裂したクリスマスEPのロマンティシズムもとても良かった・・・けど、あのEPを単独リリースせず、アルバムと抱き合わせして高く売ろうとするレーベル側のセコさには呆れた(あのEPまで買うコア・ファンが、アルバムをまだ買ってないわけないじゃん!)そんなことやってるから、みんなCD買わなくなるんだよ・・・。
Herman Dune/Next Year In Zion(City Slang)
ジェフリー・ルイスとも仲良し、タウンズ・ヴァン・ザントの歌心とジョナサン・リッチマンのペーソスが絡み合うハーマン・デューン。シンプルながら沁みる歌心と子供のような感性が滲む歌詞はいつもながら眩しいし、女性コーラスとホーンのほんわかした絡みがいい味。
Anna Järvinen/Jag Fick Feeling(Hapna)
スウェーデン原盤は昨年出たけど、海外盤は今年発売・・・ということで強引に入れました。こんなに愛くるしいひなぎく声で清らかなポップ・ソングを歌われた日にゃグウの音も出ないし、「ズルい!」とすら突っ込みたくなるスウェディッシュ・ポップ勢の屈託のなさを差し引いても、シニカルな当世にこのまっすぐさは特筆もの。ではひねりがないのか?と言えばそんなことはなく、ドゥンイェンの面々も演奏で参加した独自のもっちゃりサウンドは味気ない今風コマーシャル・フィメール・ポップからこの作品を引き剥がし、独特な個性を生んでいる。三つ折りソックスとぺたんこ靴の激ガーリィな音。
Jeremy Jay/Jeremy Jay(K)
髪型と衣装を変えればホラーズのメンバーとしても通用しそう(?)なモッドでノッポなお痩せさんSSW。そんな見た目にそぐわないキーの低い声と訥々とした歌いっぷり、ナイーヴなメロディとさりげなくも味のあるギター・プレイには、ロバート・フォスターあたりが思い浮かんできて急所をふいに突かれた感じ。ヴィヴィアン・ガールズほどモロではないけど、ここにも80Sギター・ポップ特有のあのぎこちない魅力が鳴っている。昨年出たEPでのバンド・サウンドより、ほぼ一人で全演奏を手掛けた本作の簡素なプロダクション(エコー処理がナイス)の方がこの人の歌の魅力を率直に伝えていて好み。1曲目「Nite Nite」のジェントルさを、まずはどうぞ。
Langhorne Slim&The War Eagles/Langhorne Slim&The War Eagles(Kemado)
バンド名義になる本作は、淀みないグルーヴとグッド・メロディ、すっとぼけたカントリー~ブルーグラス・ポップ・アレンジが文句なしに楽しい1枚。旅に出たくなります。ラングホーン・スリム(本名はショーン・スコルニック)の歌い手としての幅広い表現力からオルタナ~VU好きな面も覗く柔軟な感性までがばっちり刻まれているし、フォークやカントリーは「古臭そうでどうもねぇ」と敬遠気味な若いリスナーにも、こういうモダンな作品から入門してもらえたらな・・・と感じます。
Jenny Lewis/Acid Tongue(Warner Bros.)
サドル・クリークゆかりの作品と言えば今年はシー&ヒムもあった。あのレコードの音そのものの良さ・リッチさは高く評価するものの、ズーイー・ディシャネルのお人形さんのような声はどうも心に残らず、楽しみにしていただけに残念でもあった。そのシー&ヒム(ズーイー&M・ウォード)も参加~かわいさではズーイーにも負けない(そしてホット・パンツも似合う)ライロ・カイリー:ジェニー・ルイスのセカンド・ソロは、カントリー・ロックンロールをエモーショナルに歌い上げる佳作。シンガーとして一皮剥けたと思う。
Lindstrom/Where You Go I Go Too(Smalltown Supersound)
エレクトロニカ門外漢なのでウンチクは垂れられませんが(笑)、友人から教えてもらったこのノルウェー人DJ/プロデューサー/アーティストの作品は愛聴している。夜明けの海原が眼前に大きく開けてくる音。
Cass McCombs/Dropping The Writ(Domino)
浮雲人イメージの強いSSWだが(モニター~4AD~ドミノとレーベルを渡り歩いてきたのもその印象を強めているかも)、本最新作はカテゴライズ不可能な感性が根を下ろし、奇妙なポップの枝をにょきにょき伸ばしているのを感じさせる快作。エコーの被膜に包まれた前作に較べ分離のいい音作りはメロディを際立たせているし、淡くエレガントなヴォーカルは心をざわつかせるロック・ビート、ジェントルなフォーク、ソウル・ポップまで個性的なソングライティングをスマートに乗りこなしていく。よく聴くといびつで癖になるアレンジも冴えてる。ビル・キャラハンとプラッシュの間をいく存在との認識を強めた。
MGMT/Oracular Spectacular(Columbia)
08年を総天然色に染め上げたスーパーご機嫌なポップ・レコード。大ヒットした絶品シングル3枚――特に「Time To Pretend」は、斬新であると同時に「なぜ今まで誰もやらなかったんだろう?」と首を傾げるほど不思議にジャストでもあった――の素晴らしさは言うまでもないが、ジョン・レノン~ボラン味たっぷりの「Pieces of What」を聴くたび涙してもいる。現象と化しただけに、09年は二番煎じがわんさか登場しそう。
Mercury Rev/Snowflake Midnight(V2/Cooperative)
スラッジ・サイケ(「Yerself is Steam」「Boces」)も宇宙メルヘン(「See You On The Other Side」)もアメリカーナ(「Deserter’s Songs」)もオーケストラ・ポップ(「All is Dream」)も好きだけど、本作で再び別空間にワープ。偉い。ジョナサンは取材時「プレイしたものをそのまま録って、40分台の楽曲から編集・消去して、そこに他のパートを貼り付けてみたり。その行為自体が粒子加速器みたいだった」と本作の成り立ちを話してくれたが、型にはまらないアプローチとアイデアの横溢は更新されたクリエイティヴィティを語る。フレーミング・リップス「Christmas on Mars」サントラと並び、年齢を重ねても冒険は可能と励まされた1枚。リミックスはジェイムス・ホールデンの解体ぶりが良かった。
Nick Cave&The Bad Seeds/Dig!!! Lazarus,Dig!!!(Mute)
グラインダーマンに触発された(?)とおぼしき野卑で獰猛なガレージ・ブルースと、ダークで官能的な寓話が絡み合う濃厚な1枚。声を聴いているだけで妊娠させられそうな気がするので、女性リスナーは服用時要注意かと。悩ましく無骨で、ロマンチックなのに滑稽。罪の意識に苛まれつつもどこか圧倒的に無垢で、脆くすらある(etc)――男という生き物の内面の不思議さ&複雑さをニック・ケイヴにはこれからも詩に託してぐいぐい抉り出していってほしいし、(これ以上髪が薄くならないうちに)日本のオーディエンスの目と耳にライヴ・シーズの衝撃を焼き付けてもらいたいもの。
Conor Oberst/Conor Oberst(Merge)
ブライト・アイズ作品での密度の濃いプロダクション~緊張感も良いけれど、久々のソロ名義作に鳴る肩の力が抜けたカントリー・グルーヴは肌理の粗いバンド・サウンドの根源的な快、そして本来の若さに立ち返ろうとしたコナーの姿を伝える。このバランス感覚は彼の最大の武器のひとつだろう。しかし曲のクオリティはどれも高く、手抜きはなし。「Lenders In The Temple」「Eagle On a Pole」「Milk Thistle」などは未来のクラシック化確実な曲だろう。
Ponytail/Ice Cream Ritual(We Are Free)
エイブ・ヴィゴーダ、ノー・エイジなど電撃テレパッチ!なノイズ・パンク~アヴァン・ポップ作品はよく聴いたが、この4人組のキリキリ脳天に食い込む散弾サウンドの鮮度と起爆力、めくるめくギター・インタープレイの機動力には足元からひっくり返された。ヘッドバンギングさせられっぱなしのライヴもまじ最高。
Portishead/Third(Mercury)
「心の友」レコードその②。以前からのファンには待った甲斐あり&充実の内容、かつ若いリスナーにこのユニットの個性を焼き付けた作品だと思う。トリップホップというかつてのレッテルを彼方に流し去ったこの作品は、フィルム・スコア、ジャーマン・ロック、ジャズ、フォークなど1曲ごとに曲想を変えつつ、ストイックなアレンジと吟味されたサウンド・デザインが見事な一貫性を与えている。低く垂れ込めた雲、皮膚にしみこむ海風、夕闇に膨らむ言われのない不安。盤から立ち上る空気感はリアルでぞっとするほどだし、バブリーな現イギリスが押し込めようとする暗部や歴史の重さ、軋みが怨念のように滲んできて(別に社会派のレコードではないのだけど)、冷水を引っ掛けられた思い。頑固な人達だが、納得のいくまで自分達の内面とヴィジョンに向き合い外部の干渉を遮断することでアーティスティックな勝利をもぎ取った彼らの姿勢には拍手を惜しまない。
Arthur Russell/Love is Overtaking Me(Audika/Rough Trade)
Wild Combination(DVD-Plexi Film)
アーサー・ラッセル関連2作。「Love is~」は彼のアーカイヴ音源からフォークやアコースティック・ソングを集めたもので、インストや前衛コンポジション、ダンス・ミュージック・クリエイターとして知られるこの人の中にあった素朴な歌心と豊かさをひもとく内容に改めて感動させられた。「Wild Combination」はARの短い生涯を描いたドキュメンタリー映画で、60~80年代に至るアメリカ前衛音楽の動向はもちろんのこと、肉親やパートナーが語るARの知られざる内面、広大なサウンド・ユニバースに迫る力作。
Ryan Adams&The Cardinals/Cardinology(Lost Highway)
こんなに正面切ってロックするライアンって、実は初めてじゃないだろうか?ベタかもしれない。でもこの熱さとスケール感は、彼の奔馬なエネルギーに存分に吠え、泣き、わななくためのビッグな背景を与えている。軒並み質の高い曲揃いだし、ロック・バンドとしてのカーディナルズ覚醒の1枚とも言える。
School of Language/Sea From Shore(Memphis Industries)
現在活動休止中:フィールド・ミュージックの中心人物であるデイヴィッド・ブルウスによるソロ。イーノ、ロバート・ワイアット&ケヴィン・エアーズ、カンタベリー・ロックなど70年代UKアート・ロック~プログレ好きならアンテナがピピー!と反応するであろう高踏ポップ・・・なんだけど、親しみやすい軽さとモダンな洗練も兼ね備えている。ジム・オルークの「Insignificance」あたりがツボな人にもお勧めだし、弟ピーターの新プロジェクト=ザ・ウィーク・ザット・ワズのファーストとセットでどうぞ。
The Sea And Cake/Car Alarm(Thrill Jockey)
上記スクール・オブ・ランゲージの米発売元であるスリル・ジョッキーのいまや古株:ザ・シー・アンド・ケークの8th新作。サム・プレコップのヴォーカルは相変らず涼やかでそよ風のように耳を撫でていくが、1曲目から弾けるサニーなリズム&繊細なギター・ワーク、スティール・ドラムのゆかしい響きなど、上質なコットンのシャツに腕を通す贅沢さを思わせる瀟洒なポップ美にうっとり。初夏の木洩れ日を浴びながら聴きたいレコード。
Shearwater/Rook(Matador)
前作「Palo Santo」の方がトータルな完成度では僅かに勝るけど、元オッカヴィル・リヴァーのジョナサン・メイバーグ率いる憂愁のチェンバー・ロック・ユニット:シェアウォーターが生み出す格調高くエモーショナルな世界はやはり別格。ピアノ、フルート、ストリングスなどクラシカルな楽器編成から苛烈なドラマとテンションを引き出し、悲哀をうなだれるのではなくパワフルな情念として描く様には打たれる。アーケード・ファイアからお祭り性を排除し、シリアスさを強めたらこんな感じかもしれない。(「Tilt」以降の)スコット・ウォーカー、ニコ、トーク・トークなど「冬の音楽」が好きな人に。
Marnie Stern/This Is It…(Kill Rock Stars)
痛快無比なNYのギター・シュレッディング・レディ、待望の新作。エンドレスに畳み掛けるイマジネーション満開!な超絶ギター・プレイと猫の目ヴォーカルにザック・ヒル(「Astrological Straits」もバーストしまくってたな~)の絨毯爆撃パーカッションがスパーク、そのヘアピン・カーヴを次々高速走破するような手に汗握るスリルの後にはポジティヴなカタルシスだけが残される。演奏・キレ・フックと精度をぐいっと上げつつタメの効いたアンセミックなメロディやハード・ロックの骨太さにまでリーチしてみせたこのアルバム、早くもカリスマの風格すら。
Sun Kil Moon/April(Caldo Verde)
マーク・コズレクの声だけでご飯3杯は軽くいけるクチ――そんな人間がこの作品について書いても説得力がないかもしれない。しかし悠久のメランコリアを心の水底からリフレインする深い歌声とウェットで饒舌なギター・ワーク、やはり胸を揺さぶられる。
TV on the Radio/Dear Science(Interscope)
のっけから押し出しの強い音&「パパパ」コーラスには驚かされたが、しなやかなファンクネスとダンサブルなエネルギーが顕在化~アーバンなトライブ・ミュージックの祝祭と化した本サードは、より多くの人間をこのバンドの磁場と尽きせぬ魅力に導くと思う。ファイナル・トラックに向かい荘厳なまでの音の伽藍へビルド・アップしていく精緻なプロダクション、その妙には最初から最後まで息を呑まされる。
Vampire Weekend/Vampire Weekend(XL)
「心の友」レコードその③にして、筆者のダントツ!08年ベスト・ポップ・アルバム。抑制されたアレンジと飛び道具ゼロのオーソドックスな音作りゆえ、たとえばMGMTみたいな出会い頭のインパクトは弱いかもしれない。しかしリズムに対する柔軟かつシャープな感覚、言葉とメロディ双方に輝くスマートな知性との融合はずば抜けているし、この人達はブッキッシュなストロークスだとマジに思う(ポップの新章を開いたという意味でもグルーヴを体得したロックンロール・バンドという意味でも、また完璧なデビュー作という意味でも、ストロークスのファースト以来の鮮烈さだ)。針を落すだけで幸せになれる、そんなレコード。ライヴ・アクトとしての素晴らしさも特筆ものだった。
Vivian Girls/Vivian Girls(In The Red)
DIYガレージ・ロックの新星にして、Twee革命の旗手(→と勝手に決め付けている)。シャングリ‐ラズのおきゃん味とフェミニン・コンプレックスのレトロ&天真爛漫なメロディ・センス、レインコーツの無防備なほどの作為のなさまで包括しつつ、ビーチ・ボーイズからラモーンズに至るロックンロール~サーフ・ロックのピュアでイケイケな快とドライヴ感を体得している素晴らしいセンスのバンド。メンバー3人ともめちゃフレッシュでキュートだし、スター性もばっちり。MIAやエイミー・ワインハウスもどきはもうたくさんなので、こういう女の子にもっとスポットが当たってほしい。
★Tracks20★
Dodos/Red&Purple
アニマル・コレクティヴがフォーク・ポップをやったらこうなる?とも評されるバンド。軽やかなメロディとリズミカルなバック・トラックのハーモニーに酔わされる曲。
Dungen/Satt Att Se
最新作「4」からの先行シングル。冒頭からボワァァァーン・・・と脳髄の深層に浸透していくドープなサウンドに導かれ、気がつけばオーガニックなサイケデリアの森の中に迷い込んでいる。白夜の下でこの音を聴きたい、と思わせる罪作りな音楽。
Foals/Baloons(Kieran Hebden Session)
UKアート・ロックの新星。キエラン・ヒビデンとタッグを組んだアルバムにも収録の人気曲(ギター・リフの組み立て方がナイス)、色んな意味でこのバンドのイギリスにおける異分子ぶりが際立つことになった。
The Helio Sequence/Lately
はっちゃけ気味のインディ・デュオだった彼らだが、最新作ではメランコリック&メロディック路線を更に掘り下げていて◎。アルバム1曲目を飾るこの曲、切ない歌詞とこみあげ系のメロディに泣かずにいられましぇん。
Hercules and Love Affair feat Antony/Blind
ハウスとディスコとゲイ・カルチャー――ものすごく直裁なコンセプトを掲げるDFAアクト。ドクドク響くビートに乗ってアントニー・ヘガティのメランコリックでディープな歌声が飛翔するこのアーバンな曲は、そのエッセンス(ロマンス&ハートブレイク&退廃)を集約した優雅で切ないフロア・アンセム。
Late of The Pier/Heartbeat
聴き手を強制的に踊らせるような、過剰かつ抗いがたいエネルギーで充満した曲。ドラッグのやり過ぎでパラノイアに陥ったゲイリー・ニューマンが、逆ギレして暴れまくっているようで非常に楽しい。
Let’s Wrestle/Let’s Wrestle/I’m In Fighting Mode
ロンドン発のすさまじくセンスのいい学生3人組。ジョナサン・リッチマン、ヴィック・ゴダード、ピーター・ペレット。三者のいずれかに反応する人なら、この歌心に何か感じるはず。
Neon Neon/I Told Her On Alderaan
ブーム・ビップのクローム・メタリックな80年代パロディ・サウンドを舞台に、グリフたんのノホホ~ンと切ない声が紡ぐエレクトリック幻想。シンディ・ローパー並みにキャッチーな即効性のメロは、ストロークスのセカンドに入っていても不思議じゃない。
No Age/Eraser
耳垢を強制洗浄してくれる健やかな音。ローファイ・パンクのスクラブ。
The Pains of Being Pure At Heart/A Teenager in Love
クリスタル・スティルツと同じSlumberland所属の4人組、曲作りの上手さとキュートを恥じない瑞々しさが光る。グラスゴーmeetsサーチン・フォー・ヤング・ソウル・レベルな青春ポップ。
Pop Levi/Never Never Love
神出鬼没なポップ紳士が放ったロボッティック・ファンク。グリッチにチャレンジ・・・したつもりだったのかもしれないが、この人に手にかかると胡散臭く色っぽいリーヴァイ・ポップになってしまうんだからアラ素敵。
Jay Reatard/Gamma Ray(Beck cover)
ソリッドなモッド・ポップを鳴らすオリジナルも良いが、サーフ・エコーをまぶしテンポを上げ、高音できゃんきゃんシャウト・・・とせわしなさを増したこのヴァージョン、歌詞に描かれた強迫観念をそのまま音に移し変えエスカレートさせたようで、何度聴いても笑ってしまう。ナイス。
Santogold/L.E.S.Artiste
エグいビート・メイクといいヴォーカルのアクの強さといい癖になるコーラスといい、並み居る女性アクトを押しのけるインパクトがとても鮮やかだった。アルバムではブロンディーやストロークスも顔負けのNYポップを軽やかに歌いこなし、おしゃまな一面も覗かせてくれた。
The Streets/On The Edge of A Cliff
名作「Original Pirate Material」・・・とまではいかないが、トーキング・シンギングのスタイル(ラップではない)、そしてビート・メイクよりもシンプルなメロディにフォーカスした最新作は、マイク・スキナーのアーティストとしての幅を伝えるいい作品。その中でも個人的なベスト・トラックであるこの曲、ほんとロバート・ワイアットとのデュエットを実現させてほしかった。
Svartbag/Billy Name
デンマーク発エレクトロニカ・ユニットのセルフ・タイトルのアルバムから。ジャーマン・ロック、プログレ・サイケ、映画サントラ(ゴブリンとかね)の影響をクールに咀嚼したコズミックな音作りがナイスな人達で、ウォーホルのファクトリー連中の話し声をサンプリングしたこの曲(タイトルもずばりですが)は「Sister Ray」の暗さを経て後半モグワイばりにブルータルなギターが飛び出して痺れる。
The Tamborines/31st Floor/Come Together
シューゲイザーを通り越してアノラック・ポップのブームが来るか?という雲行きだけど、ネオゲイザーの英拠点:Sonic Cathedralからもシングルを出していた本トリオの最新曲は強力。持ち味であるレイン・パレード風ドリーム・ポップだけではなく、ばきばきに覚醒型ギター・サイケもばっちりこなせることを証明。
Times New Viking/Anything Could Happen(The Clean cover)
ザ・クリーンのカヴァーというどんぴしゃな選曲センスに激ローファイなプロダクションが加わり、一発で降参させられた。ロス・キャンペシーノス!とノー・エイジとのスプリット・シングルより。
The Week That Was/The Airport Line
バロック・アレンジと80年代英FMラジオ風ポップを融合する個性派。グルーヴィなビートとリリカルなメロ、終盤に高鳴るストリングス・・・とこの曲の完成度は特に秀逸だと思う。ローニー・ディア「The City,The Airport」と並ぶ、空港ポップ(?)の名曲。
White Denim/All You Really Have To Do
パワー・プログレ(=一歩間違えばハード・ロックってことなんですが)を叩き出すパワー・トリオ。暑苦しく毛深いが、テクに寄りかかることなくツェッペリン流ファンクネスをブチかましていて爽快。
White Williams/New Violence
80年代味をアクセントにしたポップには基本的に弱い。シンセ音といいバカなエフェクトのフィルといいネオン・ネオンといい勝負だし、夜の高速が似合うクラウト・ビートとクール&グラマラスなコーラスはハマる。
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