青春時代から過ぎること十数年。当時あれほど熱中したギター・ポップやネオ・アコースティックはもう殆ど聴かなくなってしまっている。鬼のように好きで自分の中での絶頂期以降も何かにつけて聴き返していたフェルトでさえ、少なくとももう3年は聴いていない。あの周辺の音が流行っていないってことも関係しているのかもしれないが、ここ数年の遠ざかり方は我ながら隔世の感がある。多少なりともギタポの香りがするようなものは、「くわばら、くわばら」と呪文を唱えて逃げるくらい。自分と同世代で、同じようにネオ・アコにはまった友人知人が未だに当時の音楽やその延長を聴き続けているのを、やや批判的に思っていたこともある。音楽に近い職業の知り合いは、仕事ってこともあるのだろうけれど常に新しいものを追いかけているし、ファッションと同じで時節で変化するものを追いかけてそこから自分スタイルを見つけるのは、俗物で飽きっぽい自分に合っているし。今の音を追いかけないで音楽ファンと言えるのか?豪そうにそんなことを思っていたのかもしれない。
ファッションと同列に考えてしまうと嫌がる熱心なリスナーも確実にいるようだが、音楽を作ったり生業にしている訳ではない自分にとって、音楽もファッションも嗜好の一つであり、その人のスタイルをつくる要素だと思っている。そんな自分の中で、ストレートに青春してしまっているギター・ポップはあらゆる点において自分には若過ぎるし、リアルじゃない。恋の駆け引きも告白のドギマギも遠い過去の話。そんなことに割く時間なんて、働き盛りにはないんです!誰ちゃんが好きだの、誰ちゃんと誰くんが付き合って悲しいだの、そんなことにアルバム一枚費やせる意気地ゼロの色惚け草食人間に付き合っている暇はな~い!いや、若い頃は彼らと共感できる部分もあったんだと思う。けれども、世間の荒波に晒されている内に、猫をかぶる余裕もなくなり本性が剥けてきた。好きなら押し倒す、彼女がいても奪う(実際は奪えないけど)、恋はワンナイト・スタンド=明日への活力な肉食女に変貌してしまった。年を取るということは厚かましくなることとは言い得て妙だ。
ギタポ系男子の見た目も自分にとっては異星人。年齢差もあるのだろうが、バンドTとユニクロ以下のスーパーのプライベート・ジーンズを着ている2、30代男性にトキメキを感じることは先ずない。感じられても迷惑だろうが。ファッションと音楽は別物という考えも至極ご尤もだが、今時のアーティストで格好を気にしていないヤツなんていないだろう。バンドの写真見れば大抵はどんな音だが想像がついちゃうもんね。そんな中で際立ってカッコ悪いのがギタポ系。いつの時代の清貧を背負っているのだ?と思わんばかり。スタイルも何も気にしない、僕らには音楽だけですって正当なところが、いつの間にか自分とは全く相容れないものになっていた。
そんなギターポップを聴かなくなって久しい今年の初夏のこと。ネット・ラジオを垂れ流し的にストリーミングしていた時、その音が耳に、胸に響いた。出だしから滅茶苦茶ネオアコな音、弾ける高音の女性とも男性ともつかないが、自分の感性に響いたのだから100%男性なのだろう。恥ずかしいくらい煌めくキーボード、シンプルなドラム、どれをとっても100年ぶりに聴くようなフレッシュで若い単純な音。だけど、このトキメキは何?これは恋?ってそんな訳ねーだろー(笑)。でも、アイ・フェル・イン・ラヴ・ウィズ・ザット・ミュージックだった。
Angry Carlie--Generationals
それがこのジェネレーショナルズのデビュー・アルバムに収録されている「Angry Charlie」だった。超ど真ん中の3分サイケ・ギター・ポップ。ハンドメイド感の強いサウンドと極上のメロディ、そしてテッド・ジョイナーの若々しいヴォーカル。背筋が寒くなるくらいダサい音なのに、目を覆いたくなるくらい恥ずかしい歌詞なのに、ドルガバのサンダルを脱いで(でも捨てない)裸足で土手を駆け下りたくなるような、素な幸せを感じさせてくれる。どうして今更こんな音に惹かれてしまうのだ?と我が耳を疑ったが、実体を知りたいという気持ちが抑えられなかった。だが一発だけの輩が多い昨今だ、これ以外はしょぼい曲なんだろうと、過剰な期待はせずにアルバムの半分を試聴できるというオフィシャル・サイトをチェックしたところ、なんと捨て曲なしの頑張りぶり。こんな新人がいるのか、アメリカってやっぱり凄いなと思ったら、ちゃんとキャリアのある人達でした。
イームズ・エラ。その系統では知られたインディー・ポップのバンドだったそうだが、済みません、全く知りませんでした。大学在籍中に学生仲間で結成したバンドだったが、2枚のアルバムを出した後、就職や結婚など人生の岐路に立ち、それぞれに別の道を歩むことになった。その中の真性音楽バカ、ギタリストのグラント・ウィドマーとテッド・ジョイナーが二人で始めたのがジェネレーショナルズ。念のためEEの音もチェックしてみたが、音的には今とやっていることは変わっていない。だがメンバーが減った=余計なものが削ぎ落とされたと考えていいだろう。EE時代も中核だったであろう二人の焦点がより明確になり、曲の構成も音の作り方も格段にスッキリ明確だ。何より女が歌っていないのがナイス!と言ったら元も子もないか(女性ヴォーカルが苦手なもので)。
こんな20年前ぐらいのグラスゴーみたいな音、どっから出てきたのか?たぶん西海岸のあの辺りだろうな、と思ったら、驚き桃の木。温度150%増しのルイジアナ州ニュー・オーリンズだった。あのハリケーン・カトリーナも記憶に新しい、ジャズとファンクのスワンプな街にこんな青臭い湿度の低い音を出すシーンが存在しているのは意外だったが、レーベルがPark The Vanと知って納得。大好きなドクター・ドックを擁するこのレーベルはハリケーンの影響で一時フィラデルフィアに移転していたが、昨年に本拠地ニュー・オーリンズに戻り、地元復興のためにも地元の才能発掘に以前以上に力を入れると公言していた。レーベル・オーナーのクリス・ワトソンはカリフォルニア出身で元々ギター・ポップ好きという。そんな彼の嗜好や方針を知ってか、バトン・ルージュのバーでグラントが直接デモを渡し、次の日には契約の話を本格的にしていたそうだから、上手く行く時は何でもトントンと進むものだ。
キラキラ・シンセとプカっと軽いホーンで開けるのっけの「Nobody Could Change Your Mind」から、最後の「These Habits」まで合計33分59秒。ほぼ同じテンションを維持したまま、突っ走る若いサウンド。スワンプに足を取られることなく、スカっと爽やかニュー・オーリンズ。日本並みに湿気の高い強烈な夏だろうに、バテることなく行けるのは若さ故か。変なカッコつけや気負いがないところは、恐らく非常にリアルに作り手のマインドを映していると思う。ご当地の名アーティスト、サッチモやドクター・ジョンやリル・ウェインではなく、パディ・マクアルーンやロディ・フレイムが好きって気持ちに半端がないんだろう。サラっとした砂浜で夕暮れを眺めるような、一昔前の青春ドラマのエンディングのようないじらしい気持ちになれて少し若返った気分。インスタントに元気がつく健康飲料みたいなこの一枚、バンドと同世代のリスナーではなく、日々の仕事に疲れた自分と同世代の皆さんにこそオススメしたい。効果は飽くまでもユンケルではなくリポビタン的だけれども、穢れのない音に心洗われて、10代の頃の自分に戻ったかのような気持ちになれる。錯覚なのは分かっているが、そんな気分にさせてくれて有難う!って思えることうけ合い。CD一枚分の投資が無駄にならないことを保証いたしましょう。
バンドメンバーのルックスも期待を裏切らない好青年ぶりで嬉しい。先のオーナー直撃男、熱い想いを秘めるギタリストのグラントは、ミシシッピの川で溺死したジェフ・バックリーをちょっとだけ髣髴とさせる男前。片割れのテッドはジャケット写真での隙歯ぶりが気になるものの、美男の必須条件である「立派な肩幅」と「尻顎」を備えつつ、脳天を割って出すような天使の歌声を神様から与えられた稀有な存在。こんなツバメがいたら文句なしの人生だな(金もかからなそうだし)、と浅ましいことを思ってしまう汚れた自分が言うと説得力がないが、こういう音楽を素直な気持ちで聴くことができる自分も大切にしたいな、とこの一枚は認識させてくれた。この周辺をDIGする気には到底なれないけれど、たまには昔を振り返るのもいいのかもしれない。そんなおセンチな気持ちになった2009年夏も、あっという間にもう終わり。また年と面の皮の厚さが正比例で増すわけだが、ちょっと優しい気持ちが取り戻せたかも。よし、明日もまた頑張るぞー!
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