アルバムス・オブ・ジ・イヤー、続いてベスト30枚です(アルファベット順)。意識的ではないにせよ、Bella Union、In The Redなど同レーベル作品多し・・・来年はもうちょっと幅を広げられたらいいですね。
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Arbouretum--Song of The Pearl(Thrill Jockey)
ボルチモア出身のこのバンド、ブライアン・フェリーのメランコリックなメロディをグレイトフル・デッドがプレイしているごとき、実に個性的な世界を3枚目にして確立。前作まで強かったグルーミィなフォーク味も残しつつ、このアルバムはアレンジ/サウンドをぐっとヘヴィにロック寄りにしていて、パワフルなドラミングに引っ張られる形でギターもファズにリヴァーブに、と歌いまくっている。特に「Thin Dominion」以降のアルバム後半はプログレ・フォークな秀逸曲揃いで、高いテンションをディランのカヴァーでシメる、繊細な構成も美しい。聴いていると、その音が生み出す異世界にすっぽり包まれ現実を忘れてしまう――自分にとってはその作品の好き/嫌いを決める大事な指標なんだけど、このアルバムはまさにそういうアナザー・ワールドからの音。
Andrew Bird--Noble Beast(Bella Union)
カントリー、クラシック、ジャズ、ブルース、タンゴなど多彩な影響(と口笛)をミックスしたシカゴ・モダン・ポップ界の個性派・・・というイメージだったこの人。作品を重ねるごとにエキセントリックなエッジは研磨・整理されてきて、「The Mysterious Production~」以降進化してきたムラのないブレンドぶりは、本作でソフィスティケーションの極みに達したかもしれない。無駄なく軽やかなポップ・アピールを湛えた歌メロももちろん美しいが、繊細なループやストリングス、ギターが戯れるインスト部の豊かさも特筆もの。インスト作「Useless Creatures」と合わせ2枚組、のビッグ・リリース。
Mike Bones-- A Fool For Everyone(Vice)
胸毛びっちりのジャケ写に「いやーん」と拒否反応が出て、3ヶ月くらいこの作品を買おうか買うまいか・・・と逡巡していた。でも思い切ってゲットして正解。歌いまわしや節作りにディランの影響がとても強い人だが、さりげなくポップなアレンジ、輪郭ははっきりしているもののくどくはない歌など、モダンな感性で濾過されたシンガー・ソングライター作品だと思う。哀感と、歌詞ににじむ情けないユーモアのバランスも最高。アゲイン、胸毛は忘れてトライしてみてください。
Tyondai Braxton--Central Market(Warp)
バトルスのもっともキャッチーなアイコン:タイヨンダイ・ブラクストンのソロ。オケとの本格共演で、クラシック音楽(特に印象派)とチャネリングしたフレッシュなダイナミズムを切り出してみせた。コンポジションの緻密な美しさと躍動感は見事な達成だと思うし、この人の大きな感性のパレットにまた新たな色彩を加えていくのだろう。
Tom Brosseau--Posthumous Success (Fatcat)
デヴェンドラ・バンハートとジャック・ホワイトの間を行く、個性的なフレージングと声質が魅力のシンガー・ソングライター。ジョン・パリッシュがプロデュース~バックはほぼアコギのみ~10日足らずでレコーディング、というストイックさが曲の良さと詩情をみごとに引き出していた前作(「My Peggy Dear」とか、泣かされたなー)に較べると、このアルバムのアレンジやプロダクションはぱっと聴き派手ですらある。が、そこは才人アダム・ピアースだけあって、繊細に配置された音と多彩なテクスチャーだけが独走することなく、トムのクセのある声とメロディ、そして歌詞としっかりハモっていて、立体的な聴体験をもたらしてくれる。繰り返し聴いてほしい、滋味豊かな音楽。
Graham Coxon--The Spinning Top (Transgressive)
この人のソロ作の中でも、もっとも完成度が高い1枚。メロディ・センスの良さは既に過去何度も証明済みだけに、こういう「アルバム」的アルバムの登場は嬉しい限りだ。そこには、ひとりの男の誕生から死までを描く・・・というコンセプトの存在も大きく作用しているのかもしれない。しかし、デイヴィー・グレアム、ジョン・マーティン、バート・ヤンシュら60年代英フォーク・リヴァイヴァル勢のアドヴェンチャラスなフュージョン精神(トラディショナルなスタイルに、ジャズやブルース、ワールド・ミュージックの話法をブレンド)と時空を越えてシンクロし、インド民族楽器なども援用した「ブリテン島:今の民族音楽」を鳴らそうとした意欲――それは実は、デーモン・アルバーンの音楽的な越境・拡張性とも根底で通じている気がする――こそ、この作品の勝利の要因ではないかと思う。
Dan Deacon--Bromst(Carpark)
エイリアン・ポッパーなんて呼ぶのは失礼かもしれないが、プロセスしまくりのヴォーカル&シュリーク(昆虫系でクセが強い質感なので、ミツバチの巣とかが苦手な人は入りにくいかもしれない)と偏執狂的にアッパーなプログラム・ビート、シンセ・サウンドがビデオ・ゲーム的デッド・ヒートをぎゅんぎゅん繰り広げ、当たりかまわずネオンのペイントを破裂させていく様はなんともシュールで痛快。前作「Spiderman On The Rings」を上回るその確信犯的ポリゴン・サウンドは、クロームとアレック・エンパイアが虹の洗礼を受け、やたらとハッピーな躁状態になってジャムっているかのよう。楽しい★ しかしスピーカーから降り注ぐ音の粒子の奥に大らかなメロディが滔々と流れていて実にポジティヴだし、チャイムや鉄琴といった基本キラキラな音使いもチャイルディッシュ&スウィートな印象を高めている。とても不思議な、でも魅了されずにいられない音楽。
Ducktails--Ducktails(No No Fun Records)
ローファイなインストを聴かせる実質ソロ・ユニット(歌も2曲ほどあり)。アフリカン、エフェクト、ミニマル・ポップ、スペース・ロック・・・と一種茫洋と流れていくサウンド・スケープながら、そのシーツをうららかにに縫っていくギター・ソロのイノセンス等々、たとえばガイデッド・バイ・ヴォイセズを聴く時に似た、「はっ」と耳を引くプレシャスな輝きが埋め込まれたディテールが妙に心に引っかかって、ハマってしまった。
The Felice Brothers--Yonder Is The Clock (Team Love)
長く聴き続けてきたせいか、今年はアメリカーナ全般に若干のアレルギー反応が出た。一時的な症状とは思うが、「羽目板がきしむポーチでジャム」的なノリって、色んなところで安売りされてしまった感が・・・だったら、ザ・バンドの「The Band」を聴く方がマシである。しかしニューヨーク上州出身の兄弟(&友達)バンド:フェリス・ブラザーズの最新作(自主リリースも含めると5枚目)には、そんな筆者のちんたらした迷いをがしっと抱きとめ、溶解させるに足るグルーヴと歌が鳴っている。もちろん声もしゃがれてるし、ジャムもフィドルもアコーディオンもあり。2年前「Tonight At The Arizona」で初めて彼らに触れた頃はディラン~ザ・バンドの若きフォロワー~ちょっと背伸び気味?という印象だったが、旅と死というアメリカン・ミュージックのエッセンスが近年のツアー実体験で体内に染み込んだのか、ソングライティングの説得力も増したし(特に「Boy From Lawrence County」は出色)、音もストレート・生成り一辺倒ではない広がりが出てきた。ドラムスのサイモンが今年脱退、The Duke&The Kingに分派している。
Hope Sandoval&The Warm Inventions--Through The Devils Softly(Nettwerk)
ネオゲイザー・ブームに呼応するように御大MBVも活動再開、各地でホワイト・ノイズの遠雷が轟いているけれど、「90年代インディ男の女神」として密かにしめやかに、そしてオブセッシヴに語り継がれるこの人も、8年ぶりの新作をリリース。スコット・ウォーカーやケイト・ブッシュ同様、世間一般の民とは異なる時間帯で生きている寡作なアーティストだが、「完成したら、その時に出す」な姿勢がこういう素晴らしい作品をもたらしてくれるのであれば、もっと多くのアーティストに<2年ごとにアルバム→ツアー>の定時間軸からドロップアウトしてほしいもんです。しかし、前ファーストにまだ漂っていたマジー・スター時代のコケットリー~温室に保護された貴重で美しい花を思わせる一種プレシャスな佇まいは、本作で水墨画を思わせる枯れとニコのすごみ、そしてブルージィな闇と契りを結び始めている。メイン・コラボレーターであるコルム・オコーサク(MBV)との本格的な息の合い方も含め、じっくり確かな成長を遂げている人。
The Low Anthem—Oh My God,Charlie Darwin(Nonesuch)
前年大当たりしたバンドがいると、その二匹目のドジョウを狙う風潮が生まれるのはよくある話。「今年のフリート・フォクシーズは誰?」という思いは、やはり(たとえば「第二のMGMTは?」同様)なんとなくシーンのそこここに漂っていた気がする。特に、アメリカーナ贔屓なイギリスはそう。ウィルコを要するノンサッチから大向こうにデビュー(元になった原盤は08年リリース)したこのバンドは、恐らくその最右翼と言えるだろう・・・とまあ、なんとなくシニカルな書き方になってしまったけれど、ボン・イヴェールの抑制されたリリシズムとハートウォーミングなコーラス・ワークが紡ぐジャーニーマンの歌は、時にビーフハート型のブルースに暴走。バロック度の高いFFより、根っこはアーシーみたいだ。助手席の窓から見る、途切れなく動いていく景色が似合う音。
Mastodon--Crack The Skye (Reprise)
「今のメタリカを越えた」とも一部で評される、アトランタ発のハイパーなプログレッシヴ・メタル・バンド(そのメタリカの欧州ツアーでは前座に抜擢)。お世辞にもメタルに詳しくはないが(それなりに聴いているのはサバス系のドゥームやスラッジくらい。「Metalocalypse」は好きだけどね!)、シンフォニック&緻密なアレンジを驚異的なスピードで畳み掛けるこのバンドの、マス・ロックにハードコア・パンクまでハイブリッドする吸収・消化・構成能力には感動させられる。毎回コンセプトやそれに即した凝ったオリジナル・アート・ワークをがっちり作りこんでくる点、かつそのイメージ設定がドロドロ暗いのではなくファンタジックで壮大に突き抜けているところも好き(白鯨の海、山ときて今回は空。次作は宇宙か?)。メジャー移籍以降、名作「Leviathan」がストイックに聞こえるほどのポップ・センスを発揮していて、ブレンダン・オブライエンがプロデュースに当たったこの最新作もジャズ・フュージョンやグランジまで包括する聞かせる楽曲がエピックな広がりを生み出している。
Cass Mccombs--Catacombs (Domino)
ざっくり言えばフォーク・ロック系シンガー・ソングライター・・・とはいえ、1作ごとに変化。そのいずれの音楽的変化も好きな人ながら、今回は非常に成熟したソングライティングを聴かせるアルバムになっていて感動。グルーヴが全体を引っ張る、ベースがヘヴィなバンド・サウンドでロックしていた前作に較べ地味な印象の音だが、シンプルなカントリー調アンサンブルの穏やかなスウィング(グレッグ・リーズのペダル・スティールも効いてます)に乗り、オールド・ファッションでてらいのないロックンソウル・メロディが、ゆったり川を下っていく。美声がとてもよく伝わる音作りも沁みます。これはキャスについて毎回書いてる気がするが、次世代のウィル・オールダム/ビル・キャラハンと看做されていい天才だと思う。しかし、前作収録曲のセルフ・リファレンス「Lionkiller Got Married」の歌詞とか、その付属歌詞カードが英語版とドイツ語翻訳の2本立てだったり、相変らず謎も多い・・・。
Micachu&The Shapes--Jewellery (Rough Trade)
このリストの後半に登場するチューンヤーズといい勝負?な、レインコーツとキッド606、チックス・オン・スピードがジャムってるようなジャンクショップ・ポップの新星。鬼才マシュー・ハーバートに見出された人らしく、コンピューターにファウンド・サウンド、カスタム・メイドの楽器、掃除機etcを駆使して織り成された多彩なテクスチャーと予測不可能にご機嫌なごたまぜメロディは、スリフト(倹約)感覚とリッチな音楽的想像力の賜物だろう。その意味でもすごく09年的。天然でエキセントリックなアーティスト肌の人だとは思うが、「変わった女」と体よくレッテルを貼られ箱詰めにされ、脇に押しやられるのを良しとしない、根本的なアナキスト~不快を厭わない不穏分子な面(だから筆者の知人の間でも好き/嫌いがはっきり分かれるんだろうな~)があるのは頼もしい。ライヴ・アクトとしてちゃんと成り立っている点も、ポイント高し。
Monsters of Folk—Monsters of Folk(Rough Trade)
いずれ出る出る・・・と言われてきた、コナー・オバースト&マイク・モーギス、M・ウォード、ジム・ジェイムス(マイ・モーニング・ジャケット)の仲良しソングライターによる「スーパー・グループ」。楽曲、そしてパフォーマンスという意味ではジム・ジェイムスのそれが一番冴えていると思うが、3人の個性・(似て非なる)世界観を活かしつつ、それぞれの「本業」ではやりにくい実験やフレッシュなサウンド・スケープ、ハーモニー・ワークの探求を推進してみせたスタジオ責任者マイク・モーギスのがんばりにも喝采。
Thee Oh Sees--Help (In The Red)
次から次へ音源が出てくる、シスコのテンパり・ガレージ番長:ジョン・ドワイヤー先生。このバンド名義に落ち着いた昨今は、あとくされなし!のタイトで完結したパンク・ロックに寄っていて、この作品もソニックス~モンクス~ザ・シーズ型のスピード系でシュールな刺激を求める人にはもってこいだと思う。女性ヴォーカルのコーラスも、ソフトというよりサイコティックな感触を強めているのが笑える。こんなにあっぱれにポップなのに、どうも知名度が低いのはなぜなのだろう?と、いつも首を傾げずにいられないバンド。フォーク味を増し、幅を広げた「Dog Poison」も良かった。
Alec Ounsworth--Mo Beauty (ANTI)
声が個性的過ぎて一発で「ああ、あの人でしょ」とバレてしまうソロ:その①。ニュー・オーリンズ録音~ロス・ロボスのスティーヴ・バーリンがプロデュース、バックはミーターズ、ギャラクティックのメンバー等々ニュー・オーリンズの腕っこきミュージシャンを招聘・・・という何やら改まった布陣に腰が引けてしまうDIYインディ・ポップ・ファンもいるのかもしれない。が、クラップ・ユア・ハンズ~でおなじみの入り組んだメロディ・センス、エレガンスと風変わりの同居したその不思議な輝きは、ホーン・セクションやオルガン、ソウル・ギターがタイトに固めたサウンドをも貫通してみせる強さだ。⑨など、モロにそれっぽい楽曲ながら、オーガニックなアレンジで新たな表情。CYHSYの音楽ユニットとしての行き詰まりを打開するための単独実験飛行なのか、はたまたこれが今後のモードかは分からないけれど、このアルバムのクオリティは彼のソングライターとしての力量を十全に伝えるものだと思う。また、ここに来て面白くなってきたアンタイの、レーベルとしてのあり方~立ち位置にも注目したい。
The Pains of Being Pure At Heart--The Pains of Being Pure At Heart(Fortunapop!)
はうーっ。いい歳こいてネオアコってる場合じゃねーだろ!と自己突っ込みしつつ、でもこのバンドの80年代半ばギター・サウンド(スミス~パステルズ~MBV「Ecstacy&Wine」~ヨ・ラ・テンゴ)のエッセンスの見事な抽出・掌握ぶりには、本作に針を落すたびドキュンと陥落させられてしまう。ピュア・ポップの魅力には、永遠に抗えないってことで。
Papercuts--You Can Have What You Want(Gnomonsong)
キャス・マックームスやグリズリー・ベアとも交流のある、シスコを拠点とするシンガー・ソングライター:ジェイソン・ロバート・クィーヴァーのユニット。ヴェチヴァーのアンディ・キャビック&デヴェンドラのレーベルGnomonsongからの1作目「Can’t Go Back」は、ジェイソンのドリーミィ&メランコリックな歌声とカントリー・フォークなアレンジにネオ・ローレル・キャニオンなイメージが浮かぶ珠玉の作品だったが、2年ぶりの本作はキーボード/オルガンが存在感を増し、ビーチ・ハウスからユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカまで彷彿させるサイケデリックなサウンド・スケープへと変化。歌詞にSF的テーマが緩いコンセプトとして感じられ、それがこの音作りに影響しているのかもしれないが、彼の書くシンプルで、しかし情感に訴えるメロディとの相性は絶品だ。冬の霧の夜がぴったりな音楽。
Phoenix--Wofgang Amadeus Phoenix(Co-Op)
まさにポップ・マエストロ!の意を新たにさせられた、フレンチ・ロック・バンド会心の新作。デビュー作の時点で、既にソングライティングの卓越ぶりははっきりしていたわけだけど、ああ見えてオタク&音楽IQの高いメンバーの性格上、放っておくとマニアックに偏りがちなベクトル(でも、「Alphabetical」も大好きなアルバムです)を前作以降ぐーっと分かりやすく押し戻し続け、本作では抗いがたいピュア・ポップの花を咲かせてくれた。このアルバムの頭3曲がもたらす無条件な胸の高鳴り・突き抜け感は、たとえばジャクソン5の「I Want You Back」と同じ性質のものではないか、と。それだけでも相当すごい話だと思う。
Rain Machine—Rain Machine(ANTI)
声が個性的過ぎて一発で「ああ」とバレてしまうソロ:その②。TV・オン・ザ・レディオのキップ・マローンのユニットは、たとえば「Give Blood」など随所にTVOTR味の出ている曲もあるものの、もともとバンド加入前にソロ・シンガーとして歌っていただけあって、コブシの効いたユニークな歌いまわしとギターだけでもディープな吸引・説得力。「Love Won’t Save You」他赤裸々でパーソナルな歌詞はヘヴィに響くが、ロックはもとより、エスニックなビート、マウンテン・ミュージック、女性コーラスなどフォークロアな味付けの軽さ~空間性でバランスをとっているところもいい。ソウルフル、かつトランスを誘引する「Winter Song」のエモーショナルなヴォーカルは、ぜひライヴで体験したいところ。
Sleeping States--In The Gardens of The North(Bella Union)
イギリスのインディー・パンクス:Kaitoのメンバーでもあった、マークランド・スターキーのソロ・ユニット。しかしパーソナルなホーム・レコーディング(ほとんどの楽器も自演)から始まったというスリーピング・ステイツの音楽にその履歴書はほとんど足跡を残しておらず、シカゴ音響系シンガー・ソングライターの影響を感じさせる繊細で知的なインストゥルメンテーションを中心に、フィールド・レコーディングの彩りも微かに交えたサウンドとロマンティックなメロディは、(アルバム・タイトル通り)英カントリー・サイドの穏やかな風を思わせる。70年代のジョン・ケイルもふと思わせる、さりげなく、上質な音楽。
Sonic Youth--The Eternal (Matador)
インディ復帰作――ということで期待は抱いたし、「かつての勢いを取り戻した」との前評判も聞こえたが、筆者の耳にはかつての勢いというより、ガレージ志向のノスタルジックな作品に響いてびっくり(ストゥージズ度は全体に高いし、「Anti-Orgasm」なんて、ソニックスかと思った)。演奏の安定したクオリティ・熱気はともかく、ヴォーカル・パフォーマンス全般に覇気がないのは否めない。しかし、逆に言えば彼らのサウンドはそれだけ個性が強く認知度の高いもの=(オルタナ世代の自分には)すぐ耳に馴染んでしまうものであり、またソニック・ユース的ニューヨーク・クールの伝統をきちんと打ち出すのも彼らのアイデンティティ、ということなのかもしれない。インディ移籍だからといって突如やんちゃな実験作に走るわけではなく、むしろソニック・ユースの根底を改めて提示する大人な作品――そう考えれば、この作品は次なるディケイドへの布石でもあるのだろうし、「Antenna」「Poison Arrow」などいい曲もちゃんとある。というわけでラディカルな作品だとは思わないが、ライヴが素晴らしかったのでランク・イン。
The Strange Boys--and Girls Club (In The Red)
ここのところ健闘が光るIn The Red勢。典型的な「来る者は拒まず、去る者は追わず」なゴーイン・マイウェイ・タイプのレーベルだと思うので、ここをステップ・アップのきっかけにしていく~いずれさようなら!なアクトもいるのかもしれないが、このリストに入っているオー・シーズやブランク・ドッグスはもちろん、ヴィヴィアン・ガールズの新作もクリスマス・アイランドも今年は愛聴しました~。しかし、個人的にもっとも「キた」のはこのテキサス産バンド。ブルースとイギリスの(ちょっとB級な)モッド・ガレージ感性を咀嚼した音は・・・まあレトロっちゃレトロなのかもしれないが、ラーズやステアーズなど、リヴァプール・ガレージ好きにはたまらない。若いのに、表現力豊かなヴォーカルも引き込まれる。
tUnE-yArDs--Bird Brains (4AD)
本作のクレジットに「You Can Do It」のメッセージが書き込まれているが、すべてデジタル・ヴォイス・レコーダーとオーダシティ(編集/ミックス・ソフトウェア)を使って作られたというこのアルバムは、いわば00年代版のローファイ・ポップ。会話や咳など、そのまま盤に残された日常の断片は、呼吸するように歌い、料理するように音楽を作り出す中心人物(というか実質ソロ):メリル・ガーバスの大らかな感性を伝えてくるようだ。しかし、音質・プロダクションはチープながら、この作品にいくつも縫い合わされたアイデアの数々――フォークがベースながら、R&B、ヒップホップ、アフリカン・・・とビートのフックが実に面白い――とそれらを束ねるメリルの奔放なセンス&風変わりなヴォーカリゼイションは、他にない個性で際立った印象を残す。万人向けとは言わないし、恐らく「エキセントリック」と評される音楽なのだろう。しかし、「Hatari」「Jumping Jack」「Safety」など、ほつれた表層の奥には掛け値なしに美しい曲が潜んでいる。鼻歌混じりのアート・ポップ。
Kurt Vile--Childish Prodigy(Matador)
The War on Drugsのギタリストという本業の傍ら、ソロもやってきたこの人の大手マタドールからのデビュー作。そのWODのトム・ペティ/スプリングスティーン的メロディもそこかしこに散らばっているものの、重ねたギター・ループ、ドラム・マシンを中心に全編エコーたっぷりのローファイな音作り(風呂場録音?)は、オートマティックな流動性とフィーリング重視の歌唱~生録の解放感で作品に不思議なノリを生んでいる。「Constant Hitmaker」もそうだったが、初期スモッグ、エアリアル・ピンクを彷彿させる「俺の世界」というか、ハマるとクセになる。ふと、ジュリアン・カサブランカスにこの人の曲をカヴァーしてもらったら面白いだろうな、と感じたり。
Wavves—Wavves(Bella Union)
「ベッドルーム・パンク」との異名をとるネイサン・ウィリアムスのユニット。ノー・エイジ以降のスカズィー&無軌道なサウンドと、サーフ・ロックを始めとするオールドスクールなポップ~無邪気なロケンロー・センスの同居がなんとも美しい。爆音で聴くのをおすすめ。
White Rainbow--New Clouds(Kranky)
「09年にクラウス・シュルツをやっている」、それだけでも感動させられ、たまらず心からのエールを送りたくなる人。1曲平均10~15分(アルバムは4曲入り)の壮大&ハイパー・ビューティフルなシンセのパノラマへようこそ~
Wilco--Wilco(The Album)(Nonesuch)
ラクダの誕生会という設定のアルバム・ジャケット、「泣きたい時に君がすがれる音の肩」とベタに歌う、辛い時には僕らがいるよ~!な1曲目。スタジオ通算7作目は、アメリカン・プレミア・ロック・バンド=ウィルコの堅固&シリアスなイメージをかわすかのように、肩の力の抜けたユーモラスなトーンをまとっている。ジェフ・トウィーディーの書く歌の内実は変わっていないものの(ポップな曲ほど心象風景はヘヴィ、というところもいつも通り)、今の6人で音楽を作る喜び――ネルス・クラインやグレン・コッチェとプレイできるだけでも、多くのミュージシャンにとっては垂涎もの――が、この作品を内側から輝かせるのだろう。初のニュージーランド録音ということで、エフェクト他の使用機材をぐっと絞ったプロダクションは、たとえば「ヤンキー」の多層的・エピックな隆起を求める向きには物足りないかもしれない。しかし、メンバーのパフォーマンスがモノを言う古典的で「料理しすぎず素材で勝負」なこのアプローチを聴けるのは、ファンにとっては逆に贅沢な1枚だと思う。ライヴ・ユニットとしてひとつのピークを迎えている現在の彼ら、前作時のツアーを追ったドキュメンタリーDVD「Ashes of American Flags」(「Burn To Shine」などでおなじみ、ブレンダン・キャンティが共同監督・制作)は、垣間見えるメンバーの内面、絶品パフォーマンスの数々はもちろん、アメリカ南部の光景も実に美しい。
Patrick Wolf--The Bachelor (Blood Chamber)
1枚でメジャーから離脱(笑)、ネットを通じ、ファンから株主的援助(この人の場合は、昔の貴族社会みたく「パトロン制度」と呼びたくもなりますが)を受けて自主レーベルから本作を送り出した、骨のあるところも素敵だったパトリック。その支援・愛情をフル活用し、エレクトロ・ミーツ・クラシカルなゴシック・フューチャー的サウンドから徹底したヴィジュアル戦略~アート・ワークまで、この見事な作品に妥協なく臆面なく自らの才覚を刻み込んでみせた。ウクレレを紡ぐ内向的な半ズボン少年だったパトリック・ウルフというアーティストにとって、非常に大きな達成ではないかと思う。格調高いクラシックあるいはトラッド・ミュージックといった、いわゆる「ハイ・ブロウ」「教養系」とされる音楽と、エログロでトラッシー=低俗な00Sポップ(取材時も、「ブリトニー大好きっ!」とはしゃいでいて可愛かった・・・)に境界線を引くことなくパワフルに融合させてしまう柔軟な感性、そして自らを見世物と割り切る鋭利なプロデュース能力は、この人を自分にとって今もっともミーハーに盛り上がれるダイナミックな才人にしている――とはいえ、「Damaris」「Who Will?」など、胸にこみあげるパーソナルな歌の存在がこの作品を特別なものにしているのも確かなのだが。バット・フォー・ラッシェズ、ラ・ルー、フローレンス+ザ・マシーンなど、エレクトロでエキセントリックな女性アクトが騒がれた09年だったけど、彼女達のライヴァルは実はこの人だと思う。
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