Disc

10/03/03|Vampire Weekend
Contra(XL)
10/01/24|Best of 09
09年ベスト:40枚 by キャプテン
10/01/21|My Personal Best 2009
2009年心に残った音楽―トップ10
09/12/31|My Personal Best 2009
2009年心に残った音楽―その③(年間ベスト10編)
09/12/25|My Personal Best 2009
2009年心に残った音楽―その②(トップ30編)
09/12/22|My Personal Best 2009
2009年心に残った音楽-その①(次点、再発、ライヴ編)
09/12/07|Fuck Buttons
Tarot Sport(ATP)
09/11/01|Zoey Van Goey
The Cage Was Unlocked All Along (Chemikal Underground)
09/10/26|The Flaming Lips
Embryonic(Warner Bros.)
09/10/03|Muse
The Resistance(Warner Brothers)
09/09/28|Yo La Tengo
Populra Songs(Matador)
09/09/26|The Temper Trap
Conditions(Infectious)
09/08/25|Generationals
Con Law (Park The Van)
09/08/01|Arboretum
Song of the Pearl(Thrill Jockey)
09/06/18|Dirty Projectors
Bitte Orca(Domino)
09/06/09|Blackbud
Blackbud(Independiente)
09/06/05|The Horrors
Primary Colours(XL)
09/05/26|Subplots
NightCycles(cableattack! records)
09/05/20|Grizzly Bear
Veckatimest(Warp)
09/03/10|The Pains of Being Pure At Heart
The Pains of Being Pure At Heart(Slumberland/Fortuna Pop!)
09/02/25|Barney Bubbles
Reasons To Be Cheerful(Adelita LTD)
09/02/17|Various Artists
Dark Was The Night(4AD)
09/02/13|Higamos Hogamos
Higamos Hogamos(DC Recordings)
09/02/07|Empire of The Sun
Walking On A Dream(Capitol)
09/01/28|Animal Collective
Merriweather Post Pavilion(Domino)
08/12/31|My Personal Best 2008 Vol.4
極私的年間ベスト―④
08/12/30|My Personal Best 2008 Vol.3
極私的年間ベスト―その③
08/12/29|My Personal Best 2008 Vol.2
極私的年間ベスト―その②
08/12/28|My Personal Best2008 Vol.1
極私的年間ベスト―その①
08/11/25|TITAN:It's All Pop!
Various Artists(Numero Group)

2010/01/21

My Personal Best 2009

2009年心に残った音楽―トップ10

諸般の事情・状況が重なり、ワタワタしているうちにこんな時期!うぎゃー!というわけで、大変遅ればせながらトップ10のレヴューを。普通こういうリストって12月半ばくらいまでに終わらせるものなんですが・・・・・・ともあれ、速成ではないぶん、逆に時間の流れに簡単には腐らないセレクションだとは自負しております。また、今回は特別に、各アルバムから連想された映画作品もおまけでプラス。どのレコードも光と色彩、動きに満ちていて、自然に頭の中でリールが回り始めたのです。

1.Bitte Orca—Dirty Projectors(Domino)

充実・豊作だった09年においてこのレコードがマイ・ベストになったのは、心と脳の両方に響く音楽、というのが去年の自分にとって大きかったからなのだと思う。もちろん頭がいい/悪いといった問題ではなく、灰色の脳細胞に直接クるぅ~という感じ。ハートを感覚的に震わすメロディやサウンドと、ビートやアレンジといったコンポジションの美に酔う脳髄ちゃんによる「ステレオ効果」をもたらす音楽とでも言えばいいのか。言い換えれば、謎めいていて何度でも帰ってくる、そしてそのたび発見がある、アート・ロックのお手本のような作品であり、作品研究・分析のプロセスに大きな快感を覚えるインディ学徒(=ちょっとマゾ体質?)にはたまらない愛の対象ということ。しかし、シンプリシティとダイレクトさも備えたこのグルーヴィなアルバムは、出会った後に「こういう音、なんで今までなかったんだろ??」と不思議に感じるほど、あらかじめそこに存在したかのように、すっぽりと感性の中に居場所を獲得するクラシシズムも湛えている。その意味ではアニマル・コレクティヴもジュリアン・カサブランカスも秀逸だったが、本作のメカニカルですらある音の洗練と抑制/過剰の絶妙なバランス、そしてエモーショナルな潤いは、総合力でダントツ・・・と分かったように書いているが、それもあくまで比較論。この作品の自律した美しさは、究極的にはライターにとっていちばん厄介な、説明や解説を要しない「聴けば分かるから、とにかく聴いて!」の類いだと思う。もちろん自分のボキャブラリーがボロクソにクズなだけだが、そうやって言葉の限界を感じるのは、どこか幸せでもある。それでもがんばって、ポイントをあげていこう。
①空間。玉石を敷き詰めるようにびっちり音を並べ、異なるトーンのミックスで新たな化合物を生み出すのもひとつの手。しかし、このアルバムの邪魔な動きが一切ない整頓された音(クリーン&適所に配置されていて、混濁がない)は、聴き手を「スゲー!」と圧倒するのではなく、むしろアルバムというひとつのジャーニーを共に泳いでいこう、と誘うよう。
②演奏。これまたエコノミカルで(たとえば「Stillness Is The Move」はビートとヴォーカルだけでほぼ成り立っているほど)、高音専科なギター・リフ、メロディックなベース、ダイナミックなドラミング等々、個性がパキッと立った音がカウンターを繰り出しながらバウンスし、サビでぶつかり合う。そのプレイフルな軽やかさとお互いの音を聴き合う途切れないテンションは、自由度の高い歌メロと相まってシームレスな流れを作り出していく。
③ヴォーカリゼイション。音で冒険しようとするバンドにとって、とかくミックスの低位置に置かれがちなのが声。サウンドの一部としてヴォーカルも楽器のように使おう、という考え方は実際色んなアーティストが実践している。しかし、この作品の場合は歌が主導力。3つの声=男1:女2という具合にトーンも感触も異なる音をハーモニーや独唱、ベル・カントといったバリエーションに展開させながら、華麗な音の饗宴の中にエモーショナルなパイプを太く強く走らせている。その独特なスウィングは、インディ・ロックによるR&B(マライア・キャリー、TLC、アリーヤ等)解釈とも言えるだろうか。圧巻の例が「Stillness Is~」(ソランジュもカヴァーしてます)、「Useful Chamber」、「Remade Horizon」。
④メロディ。これはデイヴ・ロングストレスの天与の才としか言いようがないが、先が読めない旋律の飛びと跳ね方・それでいて典雅なフォルムはこの人の独壇場。
前作「Rise Above」といい本作といい、非の打ち所がない進み方を見せているこの頼もしいバンド、3月の初来日公演は、行かないと後で一生後悔することになるでっ!ということで、万難を排して観に行ってくださいまし。作品はいいけどライヴはねぇ~、というありがちな傾向をひっくり返す、素ん晴らしいライヴ・ユニットなので。現行ラインナップはまあ今後も固いだろうが、基本的にダーティ・プロジェクターズは「デイヴ・ロングストレスのバンド」なので、いつ再び流動するかは誰にも分からない。その音楽本位な変化も魅力とはいえ、アンバー/エンジェル/ブライアンのケミストリー&ハーモニーは生で体験してほしい。
●連想した映画:Pierrot Le Fou(Jean Luc Godard)、The Color of Pomegranates(Sergei Parajanov)、Black Moon(Louis Malle)

2.Merriweather Post Pavilion—Animal Collective(Domino)

「このアルバムはどこでも上位に入ってるから、わざわざ含めなくていいんじゃない?(=代わりに、もっとマイナーで取り上げられてない作品を選べば?)」という意見もあったが(しかもトップ10に同じレーベルからの発売作品が2枚!)、だからと言って好きな作品を敢えてオミットするのも、それはそれでヘンな話だし、嘘になるよなぁ・・・ということで。本作を買ったのは09年:年明けの「レコード屋初詣」の際だったが、普通その年の頭にリリースされた作品は「年末ベスト」選出期までに忘れられている/色褪せるというパターンを破り、年間通して音楽ファンの話題に上ることで09年のリスニング・レベル全体を向上させ続けた、とすら感じる。その意味で、アーケード・ファイアの「Funeral」に近い象徴的な存在かもしれない。アニマル・コレクティヴとしては、別にそういう形で貢献・影響しようという思いは一切なかっただろう。しかし、グラウンドブレイキングな作品に出会うと聴き手も自然その衝撃を基準に続く音楽に接するようになるわけで、クズとジェムの見分け方もシビアになる。いいことだと思う。
とはいえ、たとえば他のバンドがこの世界的なヒット作を音楽的な指標にし、「アニマル・コレクティヴもどき」が増えるか?と言われれば、それはまずないと思う。もどきは出てくるだろうが、あくまで「もどき」。キネティックでオプティカルなダンス・ビート、スコンと突き抜けたフックに溢れたこの作品は間違いなく抜群なポップ・ミュージックなのだが、彼らの音楽に常に存在する別世界/異界からの音~非日常性もまた、新たなレベルに達している。たとえば、耳だけではなくあらゆる感覚器官を細胞レベルで直接刺激・慰撫するような本作の音作りひとつとっても、恐らくこの作品を突き動かしているのは「聴いたことのない音/まだ見ぬ世界」を塑像することへのピュアで熾烈な欲望・好奇心なのだろう、と思わずいにられない。冬の晴れた丘に立ち、糸の切れた赤い凧がどこまでも青空の中に上って溶けていくのを成す術もなく、でもなんとなく幸せに眺めるような、それは天井知らずの想像力と冒険心。真似しようとしても真似できるものではない。
ループをベースに様々なサウンド、グルーヴ、プロセスされたヴォーカル他アイデアのペイントがドロップされていき、それらの色彩が1曲の中で沁み出し混ざり合い、あるいは分離し、新たな中間色や予想外の図形へと発展していく。アクション・ペインティングやロールシャッハ・テストが浮かぶ躍動的なサウンドは、偶発的・発作的・シュールなブレンドのようでいて、しかし実はすべての要素が精密に計算・配置され、絡み合っている。超高速カメラで捉えた植物の成長映像にも似た有機的でミラクルなそのムーヴメントに浸っていると、「まだ聴いたことのない音」というのは、何も宇宙や未来といったフロンティアに思いを馳せなくたって、私達の頭のその中にこそ隠れているのだな、と感じる。もはやバンドという一般概念すら当てはまらない(だからコレクティヴなんじゃ!って突っ込まれそうですが)ように感じる、音の不思議をどこまでも紐解いていってほしい探検者たち。
●Solalis(Andrei Tarkovsky)、Moon(Duncan Jones)

3.Embryonic—The Flaming Lips(Warner Bros.)

ソニック・ユースやヨ・ラ・テンゴといったベテランは、長い付き合いということもあり新作が出ればほぼ無条件に買ってしまうのだが、双方充実の内容&彼らにしか出せない味を確認させてもらえて嬉しい限り。しかし、キャリア25年以上のオルタナ組の中で一番驚かされたのがこのバンドだったのは、なんともご機嫌だった(最愛のバンドなので、贔屓目かもしれないが)。サントラ「Christmas On Mars」を除くと久々のオリジナル・スタジオ作~また転機作「The Soft Bulletin」から10年。ここでなんらかの変化を!という思い/願いは、少なからぬ数のリップス・ファンが抱いていたんじゃないだろうか。それに十全に応える大胆なシフト・チェンジには溜飲が下がったし、このバンドは本当に信じるに値するなぁと涙が出た。
もっとも、ただ面妖で意味不明な、「前衛のための前衛作」=聴き手を疎外する内容ではなく、サイキックなサプライズに満ちたポップ・ミュージックとして楽しめるのがポイント。ダモ時代のカン、プラスティック・オノ・バンド、マイルス(「Bitches Brew」になりきった本アルバム・ジャケットのフォントも最高)らの即興~フリー・ジャズの抽象性とチャネリングしつつ、ルーズな中にもベース・ラインやパーカッションは饒舌に歌い、シンプルなリフ中心のメロディは子供でも覚えられるほど優しい。いわゆる「歌」は音の繊維レベルにまでに織り込まれているが、するすると意識の中に流れ込んでくるので構える必要はない。リラックスして、飛ぼう。
しかし、ランダムでフリー・フォールなジャム集ではないか?とも評されるこの作品、よく聴くと音のエグい立ち方だとか凝ったミックス/エディット/サブリミナルな音の重なりなど、職人デイヴ・フリッドマンらしい「細部まで狂った」仕事ぶりによって緻密なレコーディング・アートとして成立している。携帯電話の電波干渉まで、消去せず音源に残すセンスも素晴らしい。他の人がどうこの作品を受けとめるのかは分からない。けれど、自分の耳にこの作品はとても、とてつもなく美しくピュアな音塊として、また「リップス大いなる再生のプロローグ」として響く。どれだけのバンドが、20年以上続けてきた挙句、原子レベルにまで立ち返って自分達の音楽本能を試すことを厭わないだろう?大きなアイデアの原石から切り出された音楽なので、やはり曲単位ではなく、アルバムとして体験してほしい。
●Lucifer Rising(Kenneth Anger)、Stereo(David Cronenberg)

4.Phrazes For The Young—Julian Casablancas(Cult/ Records/RCA)

声が個性的過ぎて一発で「ああ」とバレてしまうソロ:その③。ストロークスから、たぶん最後の課外活動(ニック・ヴァレンシのソロは、ないでしょう。ブラーで言えば、やっぱりこの人がアレックス?)になったのが御大ジュリアン先生。なんだかんだいってストロークスは――他の4人の貢献&センス&優れたミュージシャンシップがあってこそ成り立つもの、という前提は重々承知しているが――やはりこの人のバンドであり、逆に言えばソロはやらない(=やる必然性が低い&他のメンバーに遠慮する謙虚さがある)だろう、と思っていた。故にこのアルバムの登場には驚かされもしたが、さすがにバンドとしてしばらく足踏み&冬眠期間が長く続いていることもあり、ここらでいっちょなまった身体を鍛えておくか、というところ?(QOTSA、ファレル、デンジャー・マウス他、他流試合もちょこちょこやってきたところで、思い切りがついたのかもしれない)そういやこの作品の後に「ストロークス、解散か?」という噂が流れもしたが、直後に英ワイト島フェスティヴァル2010:ヘッドライン出演決定がアナウンスされたので、ちょっと安心。色んな意味で難しい時期に今の彼らがいるのは確かだけれど、バンドは前を見ているようです。
とはいえ、さすがジュリアンだけあってファブやアルバート、ニコライのような「ちょっとジムに行って身体をほぐしました~」程度の内容では収まらない、むっちゃ冴えた作品になっている。1曲目からあのグルーヴが次々点灯し、夜の滑走路が鮮やかに浮かび上がるごときイントロだけでも・・・もーワクワクッ!頭のスイッチがONになり、ヘッドホンで爆音で聴きながら走り出したくなってしまう歓喜のビートである。シンセが前面に出た音作りがいかがなものか?と評されもしたけど、本作にストロークスのセカンド「Room On Fire」からの延長ラインを感じる筆者にとっては、そこまでドラスティックな変化とは思えない。たとえば「12:51」、「The End Has No End」のシンセ調ギターなどモロにこの音と地続きだし、そこに「First Impressions~」のパワフルなプロダクション・スキルを加えたこの作品は、セカンドをラフ・スケッチに、ストロークスという確立したスタイル=枠に捕らわれないソロの場において、それらのアイデアを発展させた、と考えることもできそう。言い換えれば、ロックではなくポップ。それに対し、「なんだ、ロックしてないぞ!」とか文句を垂れる人間は、ジュリアン・カサブランカスというソングライターの振れ幅とユニークなアイデンティティを理解していない。先述の「Room On Fire」の評価が不当に低いことを考え合わせても、誤解の根は深く張っている気がする。
もちろん、「Is This It」が提示した核心をピンポイントで射抜く/贅肉ゼロのサウンドは絶品であり、ロックンロールのひとつの理想型ではある。しかし、「ロックンロール」にえてして付きまとうイメージ――ワイルドとかクレイジーとか――を、イコール、ストロークスが体現するものとして考えるのは違う。だって、シンプルでワイルドなイケイケのロックンロールだったら、二流のパンク・バンドがいくらでも弾いている。彼らのすごさは、しかしそんな風に頭に血が上ったイキがった状態ではなく、また「雰囲気」に流されることもなく、明晰な知性から生まれる「Is This It?」と問う(問える)探究心でもってロックンロールをモダンなフォルムへとカットし、見取り図を引き直した点。モダニズムの建築家/彫刻家に近い彼らの感性、スキニー・ジーンズにコンバースと型だけ真似ている単細胞な青二才じゃあ、100年経っても追いつかん。革ジャン着ればいいってもんじゃないだろう。

その汗とは無縁/水晶柱のように鋭いポップの知性は、パーカッションやギター、ホーン、オルガン他一部を除きすべてほぼ自演=本人の思い通りシェイプされた、不思議な輝きを内側から放つサウンドで魅了する。「11th Dimension」の中に〝I Live On The Frozen Surface of A Fireball〟という一節があるけれど、レトロなキーボード/シンセドラム/ギター&ヴォーカルのダブル・トラッキング~カウンター・メロディなど、80年代調サウンド(下手すりゃパワー・バラッド?!これってヴァン・ヘイレン、はたまたラッシュ?なクサ~い音もバキバキ鳴ってます)をワープさせ、パワフルなメロディに折り重ねることで生まれたのは、触っても熱くない光/クールに白熱する、いわば矛盾が美しいポップ・チューンの数々。ジュリアンという天才のフィルターを通して屈曲し、再合成・再編された非現実の現実~人工の次元とも言えるし、1曲ごとの凝縮度が異様に高いこれら8曲を聴いていると(というか、ストロークスのアルバムでも毎回同様に感じるのだけど)、この人の脳髄の緻密で奇妙な配線には陶然とさせられる。〝どこにいても場違い/旅人のように感じる〟と歌われる「Tourist」の歌詞に伺えるように、その独特なヴィジョンは、彼をいくぶん疎外するものでもあるのだろう――この人の歌声にいつも微量な悲しさが漂う気がするのは、もしかしたら、「自分のイマジネーションを100%具現化できないもどかしさ」あるいは「このヴィジョンは理解されないかもしれない」という不安がつきまとって離れないからなのかもしれない。それは完璧主義な表現者ならではの葛藤であり、間違っても「オレ、天才(=だから凡人にゃ分かんねーよ)」的な自己満な驕りの臭みは漂っていない。
しかし、アートは現実のフェイクというテーゼ/シュールなフィクション性を前面に押し出したトータルなサウンド・アイデアに、ポップ・ミュージックの直接的ダイナミズム~純粋な快を統合・・・という高度な離れ業を実践しつつ、ソロならではのリラックスした表情が浮かぶのはやはりバンド作品の時とは違う。もろにストロークス、な疾走がスカッとチャージする「Out of The Blue」ではユーモラス&ウィットに富んだ歌詞が耳を引くし、泣きのあるギター・ソロもご機嫌なアーバン・メランコリア「Left&Right In The Dark」ではめいっぱいの高音をヒット(彼のジャストな声域ではないけど、曲にはジャスト)、ファンキィなべース・ライン&ネオン色のディスコ・ビートがたまらなくチアフルな「11th Dimension」の〝Whoa-hhh—o!〟シャウト(=2分25秒目。アニマル・コレクティヴ「My Girls」のノリノリなシャウトと互角)も、レコーディング/歌唱をエンジョイする様が浮かぶよう。音楽に関してはむちゃシリアスな人だけに、こんな風に若干の余裕を湛えた、無防備な笑顔が見れるだけでも、心があったかくなる。
都会の夜を描かせたらやっぱりピカイチ!とうならされる「River of Brakelights」のドラマティックな展開&畳み掛けるビートのスリル、またジム・モリソンやイギー・ポップの流れを汲む〝ロックンロール・クルーナー〟(これって、シナトラを生んだアメリカならではの伝統?)としての本領も、「4 Chords of The Apocalypse」(ストーンズの「Time is On My Side」にちょい似の堂々たるアンセム)、「Ludlow St.」(アコースティックな楽器編成が新鮮)、「Glass」のみごとな歌いっぷりで充分に発揮されている。この人の声には一種超然としたトーンがあり、それが「クール」「ニヒル」と受け止められもするけれど、熱もエモーションもちゃんと備わっているのはこれらの楽曲を聴けばよく分かるはず。ただ、その出方/表現が直情ではないだけなのだ。リアルな感情であればあるほど、そのまま歌には出せなくなるものだから。ともあれ、ストロークス作品においてはメリハリ~利かせ色的に使われることが多いこの手のスロー・バラッド、今後ももっとやってほしい。印象的なギター・リフからホーンの波状グルーヴへ変容していくアレンジもナイスな「Tourist」は、足を引きずるごとくヘヴィなビートがリードするエピックなオデッセイ。もっとも非ストロークス的かつパーソナルな色が強そうなこの曲は、どこにも帰属できない異邦人の違和感、そして矛盾を抱える語り手の終わりなき旅路と疲労が滲むようでもある。が、〝君が一緒にいれくれれば/そこがいつだって俺の居場所〟というシンプルな、しかし胸打つ最後のフレーズに終結していく時、「青年のための成句」は過去約10年の間に重ねた道のりと成長から彼が導き出した、叡智の結晶であることも伝わってくる。
00年代においてもっとも大きな影響力を誇った最初のバンド、ストロークス。そのリーダーが00年代末に放ったこの作品は、ギター・バンド熱を再燃させ、若手バンドのプロト・タイプのひとつとなった矜持を更新するステートメントであると同時に、彼らが頭脳に据えたジュリアン・カサブランカスという傑出した才能のサイズ、イノヴェーション性を改めて問うものだと思う。ニコライ、アルバート、ニック、ファブ。あんた達も次のアルバムで相当がんばらないと、この人に置いていかれるよ!
※余談:この作品のコレクターズ・エディションを買ったのだが、付属の豪華本(=イラスト、写真、歌詞で構成。「First Impressions」~のブクレットを進化させたような内容)を眺めていてふと思った・・・ポートレート写真の9割が左サイドのアングル。不自然なほど、狙ったとしか思えないほど、左に偏重。ジュリアン、なにげにマライア・キャリーなのでしょうか??
●Judex(Georges Franju)、The Warriors(Walter Hill)、Tron(Steven Lisberger)

5.Veckatimest—Grizzly Bear(Warp)

09年もっとも楽しみにしていたUSバンドの新作はアニマル・コレクティヴ、ダーティ・プロジェクターズ、そしてこのアルバム。実際年末ベストを選ぶ前――というか、リリースの前からこの3枚の09年トップ10入りはあらかじめ自分内で決定事項だったくらいなのだが(笑)、いずれもその盲目的に過度な期待に違わぬ素晴らしい内容だったのは、素直に嬉しかった。ビーチ・ハウスのヴィクトリア(バッキング・コーラス)、ニコ・ムーリー(オーケストラ・アレンジメント)といったコラボレーターの参加からも伺えるように、この作品の基調はオープンさ。リズミックなイントロから寄せ、サビで眼前のカーテンがさっと開き、一気に視界がひらけるごとき1曲目からも、これまで4人の内部で醸成されてきた豊潤なハーモニーが外に向かって勇躍と迸っていくのが伝わってくる。贅沢な密度とそこから導かれるエレガントな隆起という意味では、この優れたアレンジャー/ソングライター/サウンド・クリエイター集団である4人のチーム・ダイナミズムに、今匹敵するバンドはいないだろう。まさに耳福のバロック・ポップであり、聴き始めると最後まで聴き通さずにいられなくなる音作りにはいまだ感嘆させられる。
エド・ドロストの雅やかなメロディ・センスが全開するポップ・チューン(「Two Weeks」「Cheerleader」)も珠玉だが、個人的にはダン・ロッセンのソングライティング/ヴォーカリゼイション双方における成熟ぶりに脱帽(先日、ヒースロー空港のスタバでコーヒーを買っている時彼に偶然出くわしたのだが、持参の水筒にタダ水を補給してもらう姿を目撃してますます萌え・・・たまたまグリズリー・ベアのトートを提げていたので、「うっかりストーカー・ファンと勘違いされたらいやーっ!」と3分ほど自意識過剰に悶絶)。マイケル・マクドナルドのカヴァーもハマっていた「While You Wait For The Others」など、この人の書く曲には時間を越えた何かが宿っている。たぶん、今から10年経っても同じ感情を呼び覚ます歌。
「斬新さ」「革新性」という意味では、アニマル・コレクティヴとダーティ・プロジェクターズの音の方が伝わりやすいかもしれない。しかし、グリズリー・ベアの根底にあるのはエキセントリックなエッジではなく、ソウル・ミュージックやフォーク、ひなびたアメリカン・ポップが醸すエモーションであり、微熱に似た「切なさ」だと思う。若く研ぎ澄まされた彼らの感性が、巧みな筆致で描いていくその繊細なグラデーションと今はなきゆかしさのパース。その様に、クラシックでありながら尽きせぬ神秘性と奥行ゆえに繰り返し見入ってしまう、フェルメールやジョルジュ・ド・ラトゥールの絵がだぶったりもする。思い入れという意味でももうちょっと上位・・・になっても良かったのだけど(09年前半までは、このアルバムが第3位)、そうならなかったのは、ひとえに(いまだに最初の一音で涙があふれるほど好きな)前作「Yellow House」との比較がつい頭に浮かんでしまうから。ちょっとフェアではないけど、あの作品の素晴らしさを再確認することにもなった。
●2046(Wong Kar-wai)、The New World(Terrence Malick)

6.Primary Colours—The Horrors(XL)

イギリスのバンドの作品では、個人的にダントツのトップ。ミニマリズムが身上の黒いサイケデリア(父祖:ヴェルヴェッツ、シルヴァー・アップルズ、ストゥージズ、モンクス等)を太い幹に、そこから派生していった蛮性(クラウト・ロック)、ゴス~ネオ・サイケ(ザ・キュアー、ジョイ・ディヴィジョン、リヴァプール勢)、スペース・ロック(スペースメン3、スピリチュアライズド)、シューゲイズ(ジーザス&メリー・チェイン)と様々な「ロック裏通り」に手を伸ばし、自分達の中に取り込んでみせた咀嚼力は驚異的。引用センスのいいバンドはいくらでもいるけれど、収録曲10曲のどれか1曲抜いてもバランスが悪くなる=アルバムとしての見事なフロウ&構成力、楽曲、アレンジ、プロダクション、いずれをとってもあつらえた手袋のように自分の生理にぴったり合うのは――まあ、ガキの頃キュアーの「Faith」を熱愛していた陰気な過去を持つ、自分の世代感覚も作用しているのかもしれないが――軽いショックでもあった。アメリカにも飛び火したとはいえ、この手の音を元来十八番としていたイギリス勢の中にあの黒コートなDNAがまだ残っていたか!という意味でも感動的。
しかしコピーに堕していないのは、音の質感やトーンの選び方はもちろんのこと、強力なワン・アイデアに徹する潔さ、反復がもたらす覚醒感といった先達の「キモ」をインスピレーションに、そこから開かれる可能性を彼らのテイストで更新しているから。若いバンドならではのパンクなエネルギーとパノラミックな音作りも、この作品に強い吸引力と磁場をもたらしている。また、イメージや夢想、プライマルな感情や観念だけで成り立っているこの作品のロマンティックな歌詞~世俗を寄せ付けない空洞な世界観は、今のイギリス・ロックに希少な少年性(子供っぽさ、ではない)に溢れていて、その純粋さも特筆に価する。
●Deep End(Jerzy Skolimowski)、Nadja(Michael Almereyda)

7.Popular Songs—Yo La Tengo(Matador)

本作のジャケットにフィーチャーされているアート・ワークの作家:ダリオ・ロブレトというアーティストは、恐竜の骨、アナログ・レコード、錆びたメタル、古着のボタン等々、本来の役割をいったん終えた「遺物」を作品の素材としてリサイクルすることで、それらの持つ歴史・時間の針を再び前に進める・・・というコンセプチュアルな作品を作っているという。ヨ・ラ・テンゴがこのアルバムでやったこともどこかそれに似ていて、ユーロ・プログレからソフト・ロック、60年代味のグルーヴ・チューン、バロック・ポップ、フォーキィ・ソウル、星空のドライヴなギター・バーストまで、彼らが愛するかつての「ポピュラー・ソング」のアイデア達に(まるで一度消えたロウソクにひとつひとつマッチをかざし、灯りを点すように)再び新たな生命を吹き込んでいく。その様は、現音楽シーンが潜っている大きな変化や新波に揉まれて「古い」と遺棄されがちな、しかし十分に優れた過去のポップスの魅力や価値を慈しみ、そこに宿るスピリットを再生させようとするかのよう。
このアルバムのアナログ盤のレーベルは、7インチ・レコードのそれを模した凝ったもの(2枚組ヴァイナルの計4面、どれもオリジナル・デザインなところがまたナイス!)。いまや誰も見向きもしない塩化ビニールのドーナツ盤とはいえ、そこに詰まった音がもたらす夢や喜び、感動や涙は、最新のデジタル音楽プレイヤーで聴く最先端の音楽に何も劣らないんだよ・・・と励まされているような気になる。3人の奏でる音楽そのものが素晴らしいのはもちろん(本作の楽曲もほんと粒ぞろい)だけど、音楽ファンの真心や良心を体現しているという意味でも、かけがえのない存在だと思うのだ。にしても、これだけバラエティに富んだ作風が並ぶアルバム――まるでジュークボックスみたい――なのに、ヨ・ラ・テンゴ印がどの曲にも刻印されているのはあっぱれとしか言いようがない。
●Candy(Christian Marquand)、Eternal Sunshine of The Spotless Mind(Michel Gondry)

8. Sometimes I Wish We Were An Eagle—Bill Callahan(Drag City)

ビル・キャラハン名義での2作目。前作「Woke On A Whaleheart」では天才ニール・マイケル・ハガティを共同プロデュースに迎え、軽快なカントリー~クラシカルなソウルで味付けたルミナスなポップをクリエイトしていたが(もしかすると、彼の作品中もっとも華美ではしゃいだプロダクションだったかもしれない)、本作はビルの深い歌声を活かす抑制された音作りになっている。ゆえに、ぱっと聴きは地味&渋いのだが、聴くほどじんわり沁みてくるという意味ではこの作品の方に軍配があがる。ミックスにオッカヴィル・リヴァーでおなじみのブライアン・ビーティー、シェアウォーターの面々(=チーム・テキサスってことですね)が参加、ストリングスも顔を出すなどバロックなサウンド志向は残っているものの、鍵盤や弦は空間を埋め尽くすのではなく、あくまで効かせ色として作用。そのミニマルな波動とビルの心をざわつかせるメロディがテンションを高めていく場面もあれば、シンプルなリフのさざなみが感覚を静かに包んでいくことも・・・と緩急のバランスもいい。何より、終始急くことのない本作の淡々と麗しいテンポ感、そして無表情な念仏調のヴォーカルに浮かんでは消える繊細な情動表現が最高。名曲「All Thoughts Are Prey To Some Beast」、「Faith/Void」、秀逸なアルバム後半などソングライティング/リリックも隙がなく、「マスター・オブ・ビタースウィート」の面目躍如な1枚だろう。
ジョアンナとの別れが、もしかしてメンタル面で作用しているのかなあ・・・?とミーハーに勘繰ってしまいたくもなるほど、悲しみの靄と追憶の甘さでうっすら包まれた切ないアルバムだが、自分はビル・キャラハンはこんな風にちょっとダークでダウンな方が好きかも。ごめんね。
●The American Friend(Wim Wenders)、Ariel(Aki Kaulismaki)

9. Set ‘Em Wild,Set ‘Em Free—Akron/Family(Dead Oceans)

オリジナル・メンバー脱退後最初のアルバムとなったが、心配無用:トータルでバランスのいい、いわばアクロン集大成的作品になっている。フィールド・レコーディング、フォーク・ソングといった基本値はキープしながら、前作「Love is Simple」で聴かせたキメ細かいソングライティングとホーンやストリングス隊がもたらす音の厚み、「Meek Worrior」でのダイナミックなスペース・ロック~ヘヴィ・サイケデリア等、このバンドの良い面が1枚の中に次々展開していく。詩情がこみあげる前半の穏やかな曲群もいいが、「Gravely Mountains of The Moon」以降の後半に吹き荒れるジャムも、彼らのライヴにおける爆発力を写し取った素晴らしい演奏だと思う。エレクトロも組み込んだ楽曲は「生でやるアニマル・コレクティヴ」みたいに響く時もあって、さて、このまま人海戦術のAC路線でいくのか、あるいはグレイトフル・デッド型なバンドのコアに絞った作風に向かうのか(どっちもありだろう)、興味深い。ともあれ、「Last year was a hard year/For such a long time/But this year will be ours」ってことで。
●Zabriskie Point(Michelangelo Antonioni)、Petulia(Richard Lester)

10.The Brooklyn-Queens Expressway—Sufjan Stevens(Asthmatic Kitty)

スフィアン久々の新作・・・とは言っても、もともとはブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックの依頼によって制作された、ブルックリンとクィーンズを結ぶ高速道路=The BQEをテーマにしたマルチ・メディア・プロジェクト。初演は07年で、こうしてやっと2年越しで作品化されたことになる。筆者はアナログ盤を買ったのでDVDは付いておらず(その代わりの特典はオリジナル・コミック「Super Teenage Hooper Heroes」)、映像と一緒じゃないときついかな~?と危惧もしたのだが、スフィアンのシネマティックでリリカルなスコアは都会のせわしない喧騒からハイウェイの鼓動、その中に潜む美しいランドスケープまで饒舌に描き出していて、さながら耳で聴くモダンなオペラになっている。さすが。「Illinoise」他でもシンフォニック・サウンドは追及されていたわけだけど、レジェやモンドリアンのモダンで明るいタッチを思わせる本作の映像・色彩喚起力は、「サントラ」とだけ片付けるのはもったいないと思う。以前この人がオーケストラと共演したライヴを観たことがあるが、その際ジャズ、ブロードウェイ・ミュージカル、クラシックをブレンドしたインストゥルメンテーションに陶然とさせられた。その豊かな響き合いとめくるめく聴体験は、ここにしっかり息づいている。
●(もちろん)The BQE、Berlin:Symphony of A Great City(Walter Ruttmann)


2010/01

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