まだ世に出て2週間ちょっとしか経っていないのに、この作品については既に何もかもが書き尽くされてしまった、そんな思いを抱くのは僕だけじゃないだろう。去年の夏頃から既にこのアルバムの楽曲はライヴで披露されてきたし、そのパフォーマンスの素晴らしさから、リリース前にも関らずこの作品に対してオタクな熱気・期待感が煽られビルド・アップしていったのは仕方ない。ネットへの発売前リーク防止のために、アップル並みに徹底した音源管理が敷かれた(ウェブ・シェリフまで登場)のも話題になった。
とはいえ過熱気味なムードの中「Merriweather Post Pavilion」は無事発売され、これまでのレヴューや評価も熱狂的な絶賛&誉めそやしに終始している。だが、そうしたライター/批評家達からの数限りない賞賛の嵐は、果たして信用に値するものだろうか?もしかして、軽度の集団ヒステリー状態に飲み込まれていやしないか?そうした懐疑心がつい生まれるのは、レヴュー・ライターのうち何人かはこの作品を1、2回流して聴き、その表層から溢れ出す燦々とした輝きにあっという間に魅了され飛びつき、それだけでこの作品に可能な限り最高に近い評価をサクッと与えて無難に済ませている、そんな印象を受けたからだ(とはいえ、早いうちから諸手をあげての絶賛・満点評価はさすがにカッコ悪いとでも感じるからだろう、「10点中9点」とか「4つ星」とか、微妙に抑えることでライターとしての体面を保とうとしているのはちょっと笑える)。しかし、そうやって軽く流して聴いただけではアニマル・コレクティヴの作品群――特に彼らの優れた作品の場合がそうなのだが――の本質を聴き落すことになるだろう。間違いなく最初から最後まで陽光の輝きに満ちているサニーなアルバムとはいえ、その真価はキラキラと眼を引く表面のつやよりもむしろそれを1枚めくった下、たとえば細やかにシークエンスされたグルーヴのマイクロ・コスモス、アナログとデジタル・サウンド双方を取り込みつつオーガニックな心拍を思わせる豊かな波動を作り出してみせる彼らの優れた手際など、細部に宿っているからだ。
苔でも生えていそうな回路盤から飛び出すユニークな音、蔦が絡まる時計仕掛けのようにすら感じるナチュラルかつ精緻なビート・・・といったアニマル・コレクティヴ特有のハイテクでありながらどこか古びた感覚は健在ながら、この作品でそのレトロ・フューチャーなトーンは抑え気味だったりする。また、この作品の明るさはアニマル・コレクティヴの前々作「Feels」にあったアップリフティングなオーラと直結するものだと感じるが、それ以上に強く影響として聞こえてくるのはパンダ・ベアのソロ傑作「Person Pitch」。そうした点を踏まえても、エキセントリックな個性がやや控え目になり、ポップへの愛&志向性をダイレクトに打ち出し、かつ大人の味わいや胸に迫る感動(時にノスタルジックですらある)までもちきたらす「MPP」は、アニマル・コレクティヴにとって真の意味での「思春期の終わり」を記した作品と言えるかもしれない。先史時代の太古から響いてくるような「Person Pitch」のテクノ味のマントラを、アニマル・コレクティヴの変幻自在で蜃気楼のように流動的なスタイルに落とし込んだらこうなるのでは?とも感じる作品だし――もちろんエイヴィーとジオロジスト両者の貢献ぶりをけなすつもりは毛頭ないものの――この作品は全体的にノア(パンダ・ベア)主導のレコードだと思っている。
My Girls/Animal Collective
アルバムのハイライト曲は枚挙に暇がない。「Bluish」は湾岸道路をドライヴする時のBGMにもってこいな曲だし、軽やかにスキップするビートに逆行するようなノリのいいブルー・アイド・ソウルであるこの曲を聴いていると、デニス・ウィルソンあるいはコーギスがエレクトロ・ビートをバックに歌ったらよもや?という思いがよぎる。「Lions in a Coma」では奇矯なシャウトとジューズ・ハープの簡素なサンプルに乗り、眩暈が起きるほどの熱狂が織り成されていく。エイヴィーは過去のアニマル・コレクティヴを個性付けてきたあの風変わりな持ち味をキープしているものの、今の彼はトレード・マークであるストレンジなシャウトや奇矯な叫びといった要素に寄りかかることなく、もっと大きなキャンバスを使って音像を描くようになっている。そのいい例がアルバム1曲目「In The Flowers」で、この曲での彼のヴォーカルに宿るこれまで以上の繊細さそしてさりげなさには、マーキュリー・レヴのジョナサンのフラジャイルな歌声が思い浮かんだ。
「Also Frightened」のダブ・ステップ風ベース・ラインは最初のうち調子外れにすら聞こえてノリづらいが、美しく調整されたヴォーカル・ハーモニーがそこに加わることで曲に見事な構成が生まれてくる。彼らの今作での大人なアプローチは、「No More Running」にも顕著に出ている。ゴールドスター・スタジオでフィル・スペクター&ジャック・ニッチェの天才2名が編み出した〝ウォール・オブ・サウンド〟にも匹敵するマジカルなサウンドを持つこの曲の、中空に吊り下げられたまま漂うごときヴォーカルが、下方でうねりながらせり上がるサウンド・ウォールの波頭とその砕けそうで砕けてくれないビルド・アップを待つ様――そのテンションとバランスの美しさはもう、ファンタスティックとしか言いようがない。
しかし、このアルバムの全面降伏せずにいられない陶酔感・多幸感を決定付けているのは、パンダ・ベアによる2曲だろう。自らの家族に夫として父として切ないほどの愛と思いを捧げた曲「My Girls」は歌詞の誠実さと正直さに胸打たれずにいられないが、それでいて楽曲としては感傷的でメソついたところの一切ない、ビッグで胸躍る抜群に軽やかなテクノ・アンセムになっていて最高!!いかにも~な物悲しいコード進行だの大仰なすすり泣き系ヴォーカルが「エモーショナル」だと思いこんでいるコールドプレイ系のバンド連中が、これほどまでに率直で愛するもの達への真情を吐露したピュアな歌を書ける日は――まあ、永遠に訪れないだろう。レコードのラストを飾る「Brother Sport」はブイブイ勢いのいいビートに乗ったダンサブルなトラックだが、父が世を去ったショックと悲しみにうちひしがれる兄弟を励まそうとする、これまた切ない曲。ポジティヴに誰かを力づけようとする内容は実に感動的なものの、ありがちなセンチさはまったくないのもあっぱれだ。
このアルバムに悪い曲は1曲もないし、曲の並び・シークエンスにしても完璧に近い出来。今のアニマル・コレクティヴがバンドとしてクリエイティヴィティの頂点に達しているのは間違いないし――「MPP」にまつわるすさまじいハイプや前評判、マニアックな音楽ファンが舌なめずりする期待感だのなんだのを差し引いても――このアルバムが疑問の余地なしな傑作であること、そして恐らく次のディケイドを占う新たなポップ・サウンドであること、その事実を受け入れるしかないと思う。果たして僕達は、この素晴らしい作品に値するだけの優れたリスナーだろうか・・・?
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