「音楽に突き動かされ自由に生きる天才」――と日本盤帯の宣伝文句をそのまま拝借してみたが、ライアン・アダムスというシンガー/ソングライターの存在が日本でいまひとつ浸透していない気がしてならないのは、音楽という詩神に導かれどこにでも向かってしまう彼のフリー・スピリット~そんな子供のようにガードが低い気質に大抵もれなくおまけでついてくる自己破壊的な性向とが、ニートにパッケージされたお行儀のいいPCミュージシャンが多い昨今、色んな意味で規格外だからかもしれない。2枚組もザラだし、1年に3枚レコードをリリースなんていう、まあ並み大抵のレコード会社だったら絶対嫌がるであろうプロジェクトやDIYヒップホップの珍妙な実験作をウェブサイトで公開、なんてこともあった。ブログの書きこみっぷりも半端じゃないし、遂には初の本「Infinite Blue」も出版・・・と活動の幅は広がる一方。そうなるとピート・ドハティ同様半ば放し飼いみたいなもので、次々登場する表現・音源に追いついていくのにはファンでもエネルギーがいる。しかもマスコミを通じて懇切丁寧に自作を語るなんてこともあまりない、要するに音楽そのものに代弁させる「体験して分かればよし、分からなければそれでもOK」なゴーイン・マイウェイ型。その無言実行ぶりを嘘や気取りのない、あるがままのライアン・ドキュメントとして享受するファンはもちろん多いけれど、一方でそのある意味ぶっきらぼうなあり方に「じゃあ好きな人だけフォローすればいいじゃん」というアンチな反応も生まれかねない。ライアンの歌&そして声のカタルシスがもっとも活きるライヴを比較的楽に体験できる海外はともかく、現在までフジ・ロックでしか来日が実現していない日本では、その距離感は増す一方のような気がする。うーん、切ないっ。
しかし、その距離感を埋めるきっかけになるのが最新作「Cardinology」だと思う。前作「Easy Tiger」から1年弱という短いインターバルで登場したこの作品は、現カーディナルズ=ブラッド・ペンバートン、ニール・キャサール、クリス・ファインスタイン、ジョン・グレイボフの4人による脂ののった演奏とバンド・ケミストリーを背景に、ライアンの歌心が爆発するダイナミックなロック・アルバム。ライアンといえばウィスキータウン時代からフォークやカントリーのイメージが強く、実際ペダル・スティールなどそれ系の音もばっちりフィーチャーされているのだが、バラッド「Go Easy」や「Cobwebs」の堂々たるスケールと果てしない哀感、「Fix It」のエモーショナルな飛翔とエレガントですらあるヴォーカリゼイション、ハード&タフな飛びきりのスタジアム・チューン「Magick」の斬新な表情など、「Cardinology」にみなぎるエネルギーとソリッドなソングライティングは一級品のROCKを鳴らしている。偉そうにしたり顔するつもりはないが、「ライアン、あんたはやっぱやればできるじゃん!」とぶんぶん首を振りたくなったし、この実にエモーショナルでパワフルな楽曲群に少しでも多くのリスナーが耳を傾け、複雑な心のあやを酸いも甘いも見事に歌い上げるライアン・アダムスという歌い手の尽きせぬ魅力にハマって欲しいなと感じずにいられない。筆者が体面取材をするのはこれが2度目だったが、前回はあの悪夢のようなフジ・ロック出演前のこと。インタヴューそのものも終始バッドなムードだったし何を言ってもことごとく否定され、ファンなだけに正直ものすごーくめげた経験だった。しかしこの日のライアンは実に愛嬌がよく陽気で、仲良しニール・キャサールとのダブル・ヘッダーでお互い茶々を入れつつボーイッシュ・チャーム全開!で取材に応対してくれた。カーディナルズとの「現在」で充実しているみたいだし、新作もそれに比例する見事な内容・・・というわけで過去のフジ話を蒸し返すつもりは特になかったのだが、ライアン自身あのライヴは相当気にしていたらしく、ふとしたきっかけで問わず語りの事情説明が始まり、その中から当時の彼のボロボロな状態、そしてそこから立ち直り今に至る道も見えてきた。基本的に過剰にロマンチック、感性剥き出しのセンシティヴな人なのでメンタル面での危機は再び訪れるかもしれないけれど(可能性は0%じゃないだろう)、音楽そして創作が自らの生命維持装置だと悟ったごとき今の彼は迷いなく清々しいし、生み出す音楽にもライヴにも新たな生命感が宿っている。そのニュー・ビギニングを心の底から祝いたいと思う。そして願わくは、フジでのリターン・マッチをぜひ・・・!
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――「Cardinology」は過去作品に較べて的の絞れたダイレクトなアルバムですよね。ヴァイブやエモーショナルな表現の面で一貫したところのある作品だと思います。
ニール・キャサール(以下N)そうだね、かなりダイレクトな作品だし・・・タイトにアレンジされてる。
――楽曲は、一定期間に一気に書いていったものですか? それとも以前に書いた古い曲も混じっているんでしょうか。
Nアルバムの曲は・・・どれもすごく最近の曲ばっかりだよ。
ライアン(以下R)このアルバムはね。
Nそうそう。すごく新しい曲ばっかりで、古い曲の中から引っ張ってきたってことも全然ない。
Rいや、それは違うだろ。1曲は古いよ。
Nえー、どれのこと?
Rジョンのお気に入り、「Fix it」があるじゃん。
Nあー、そうだったそうだった!
Rあれはもともと「Easy Tiger」のために書いた曲で・・・
Nだったね。
Rだから・・・まあ、彼がどうやってあの曲の存在を知ったのか僕にも謎なんだけどね。ってのも、彼は何人もの大物アーティストを抱えてるから、曲を聴く時間なんてないだろうと思ってたし。
N「彼」ってのは、僕達の本マネージャー(ジョン・シルヴァ。ベック、フー・ファイターズらを手掛ける)のことね。
――はいはい。
Rそう。まあ実質的なマネージャーはミッシェルなんだけど、ジョンはもう、僕達にとっての・・・・・・ジェダイ・マスターみたいな存在っていうか。
――リック・ルービンみたいなもんですか。
N(苦笑)。
R彼は・・・色んな面で責任を持って面倒見てくれるし・・・「ゴーストバスターズ」があるじゃない?あれに出てくるKeymasterみたいな存在なんだ。いや、Gatekeeperっていうかな。で、僕はまあ、Zuuluっていう。冷蔵庫の中にいるあの怪物ね。
――(笑)。
Rでも・・・彼はどういうわけかあの曲を覚えてたんだよね!アコースティックのヴァージョンで・・・すごく変な、僕達自身うっちゃってたようなヴァージョンだったんだけど、それを覚えていたんだよ。僕がピアノでニールがアコギを弾いたんだけど、ニールもブラッドも、クリスもあの曲をプレイしたことなんて覚えてなくて。
Nいや、お前があの曲を持ってきた時のことは覚えてるよ。
Rお前がプレイしたんじゃない?だってブラッドは「これは俺が演奏したんじゃない、俺のドラムはもっと上手いから!」って言ってたし。
N(苦笑)どうだったのかな・・・とにかく僕はあの曲のことは覚えてるよ。あれは「Easy Tiger」セッションのいちばん最後にやった曲だったんだ。
Rでも、あの曲が最終的にこのアルバム(「Cardinology」)で仕上がったような形になるとは思ってもみなかったけどね。なんというか、ジャマイカっぽくてファンキィで・・・クールな、ちょっとダンスホールっぽいところすらある曲っていう。まあ、僕自身どう形容していいか分からないけど。
Nだから、あの1曲が前作からのいわば「残り」だったわけだけど、それ以外は全部、すごく最近書いたものだよ。すごくフレッシュなんだ。
Rうん。僕からすると「Easy Tiger」でも同じようなことがあったと思うけどね。ほら、「Off Broadway」なんかは――
Nああ、あの曲は長いこと抱えてたよな。
Rうん、あれは実際「Heartbreaker」のすぐ後に書いた、それくらい古い曲だったからね。でもジョンがあの曲をすごく気に入ってて。だからまあ、過去の曲群からひとつ持ってきて、それをどう料理できるかやってみようじゃないか、みたいな。
――でもおおむね、今回のアルバム曲の大半は同じところから生まれたもの、と。
Nうん、ほとんどはそう。
Rそう、エモーションの面でも音楽的な面でも、多くがきちっと結びついていると思う。
Nいわば8ヶ月くらいの期間に集中してるっていうね。
――ということはソングライティングの期間が長かったんでしょうか?レコーディングは短いセッションだったと聞いていますし、アレンジもかなりまとめた上でスタジオ入りしたのかな?と。
Nでも、レコーディングだけじゃなく作曲セッションもマジ短かったよな。
Rまあ・・・僕は常に・・・僕はもう酒を飲んだりパーティーしたりもしないし、ツアーの間はなんというか、遊びの面が限られていてさ。何か書いたり読書したりで、しょっちゅう忙しくしてる。マルチ・タスクで書くのと読むのを両方同時にやってる時だってあるし、社交に割く時間なんてないんだ。だからまあ、曲を書く時はリズム・ギターのアイデアが浮かんできて、それを形にしたらヴァースを加えて、みたいな感じで・・・んー、だからまあ要するに僕は、いつだってできる限りたくさんの「種子」を、刈り入れの時期が来る前までに蒔こうとしているんだと思う。そうすることで、いざ収穫の時期が訪れたら、色んな種類の果実や実りを手にすることができるっていうね。うん、このたとえって悪くないと思うな。というのも、アイデアの原型は自分でモノにしていくわけだけど、色んなヴァイブの中でそれだって変化していくし、バンドのアイデアと混ざり合っていくこともある。僕はよくヘヴィ・メタルっぽいアイデアを挟み込もうとするんだけど――
――(笑)。
Rでもまあ、そこから相当変化するからそれがメタルだとは彼らも思わないだろうけど、どういうわけか・・・バンドの連中は承知してるみたいなんだ。たとえ僕が、アコースティック・ギターでどんなにフォークっぽくプレイしてメタル曲であることを隠そうとしても、バンドの面々にはバレてる気がするっていう。
N(苦笑)それはどうかなあ・・・そうじゃない時もあるけど?
Rじゃあ、たまにかも。でも、そこから生まれた中身って点で言えば・・・僕が思うに、たとえばものすごーく自己中心的で、パーソナルな・・・それこそ「自分のことばっかり」っていう曲が、なぜかみんなからピックアップされるんだよね。バンドの連中も全員盛り上がってくれるし、マネージメント側もそういう曲に興奮してくれて、そこからやっとその曲を仕上げていくことになる。だからある意味、すべてのチェック機関をクリアしてやっと曲になるっていうね。
Nははは!
Rでも、それは素晴らしいフィルター機能なんだよ。ってのも、僕はとにかく何かを創り出していきたいだけだし、それが果たして優れたものなのか中庸なのか、それともひどいシロモノなのか、それを自分で区別していくのが難しくてね。作っていく過程そのもの、それをすごくエンジョイしているからさ。
――そのフィルターのおかげで、以前より良いレコードを作れるようになったと感じます?
Rそれは間違いないね。というのも、そうだなあ、何かにたとえるとすると・・・自分がスポーツ選手だったら、たぶん僕は、どんなにそのシーズンの成績が振るわなくても、常に満面の笑顔を浮かべながら試合に登板して、ゲームそのものをめちゃめちゃエンジョイするタイプのプレイヤーだと思うんだよね。プレイすることそのものが好きっていう。だから、僕にとっては「良し悪し」って問題じゃないんだよ、とにかくプレイそのものが何より好きだから。
Nフフフッ
Rでも、チームを維持するのは楽しいし、新しいユニフォームを揃えて、たまには勝つってのもいいことだし。
――そういう今の状態から振り返って、過去の作品で「もっとソングライティングをタイトにすべきだった」「ここはこうしておけば」みたいに後悔しているものなんてあります?
Nでもまあ、それって常にある程度は付きまとうものじゃないの?
R僕は・・・もっとカーディナルズとレコードを作っていれば良かったな、そう思ってる。他のレコードでのヴァージョンよりもカーディナルズとやったヴァージョンの方が好きだし・・・そう言いつつも、もしも自分がこれまでの作品を作って、それを通じて色んなレッスンを学ぶって経験を経てこなかったとしたら、カーディナルズとの出会いもなかっただろうってことは承知してるんだけどね。
Nだね。
Rでもまじな話、自分の作品の多くはそんなに好きじゃないな。
――そ、そうなんですか?
N(苦笑)。
Rうん、ほんと、大半は気に入ってない。まあ、ここ最近好きになれるようになったけどね。たとえば「Love Is Hell」はいつだって自分のお気に入りのアルバムだったし・・・でも、それ以外の作品のほとんどは自分でも我慢できないっていう。
Nでもさ・・・。
Rあ、あと「Cold Roses」もすごく好きだっけ。
N・・・「JCN(Jacksonville City Nights)」はいいアルバムだよ。お前も気に入ってただろ?
R「JCN」は一時期好きだったけど、酒を飲みだしてからはもう、カントリー・ミュージックを聴くのが耐えられなくなって。でも、あのアルバムに入ってる曲は好きだよ。ただ、もうちょっとブラック・サバスっぽい音だったら良かったなーっていう。
――あはは。
Rで・・・「Easy Tiger」の中にもすごく好きな部分があるね。だけど、「Love Is Hell」、「Cold Roses」、そして「Cardinology」が、僕にとってのいわば、「この3枚さえ存在すれば自分は満足に思えるだろう」って作品なんだ。でも、それ以外の作品だって存在意義は何かしらあるだろうとは思ってる。あれらの作品も、他の人達にはそれぞれ異なるレベルで働きかけるだろうし、どの作品にも少なくとも3、4曲は――
N――いいジャムがあるよね。
Rそう。そういう曲は・・・
Nやっぱりまだ擁護しないと。
Nうんうん。いまだに我ながらぶっ飛ばされるものはあるし、そこに自分がなんらかの形で関ったって思うだけでもすごいと感じるものはあるからね。でも、それもまたクリエイティヴな過程のひとつってことなんだよ。作っている自分の立場だと、やり過ぎだったかどうかは絶対分からないっていう。
――また新作の楽曲は大半が3~4分台と短めでもあるんですが、今回は「とっちらかったものではなく、まとまりのある濃縮された作品を」という狙いがレコーディング前からあったんでしょうか?
Rというか、曲そのものがそういう方向を求めてきただけなんだけどね。
Nそれもあるけど・・・バンドの側にも要因があったんじゃないかっていう・・・音楽の面でも同じことが起きたっていうか。というのも、僕達はバンドとしてとにかくすごくタイトになったし、それで演奏する時もより簡明になってきたんだよ。だから、たとえば自分達がダラダラ演奏を延ばすだとか、そういうことがほとんどもう、安っぽいトリック、安易な逃げ道みたく思えるようになったっていう。ほんと――ジャムを延々と際限なく続けるのってシンプルな行為だしね。僕達の演奏能力、インストのパワーを持ってすれば、それって本当に簡単にできる。だからこそ逆に、それを自分達で制御する力を行使する方が、(弾きまくるより)むしろ優雅な行為に思えてくる、っていうか。要するに、持てる能力を敢えて抑える、そうすることでよりベターなバンドになれるんじゃないか、と。で、適度にそういう部分をコントロールして、演奏する集団として全員で曲そのものに、アレンジに奉仕していくっていう。
Rそれはステージでもそうだよ。
Nうん、ライヴでも同じことで、以前ほどもうジャムはやらないからね。というのも、気付くようになってきたんだよ、本当に優れたバンドだったら、大仰なステートメントを発する必要なんてないんだって。自分達の表現したいことはすべて表現できるし、その3分半の中に複雑な部分もたっぷりある。だからよく耳を澄ませて聴いてもらえば、すべてはそこにあるんだよっていう。
Rそれに、ジャムとまでいかなくてもソロはいつだって含められるしね。一種の・・・マフィア・セクションっていうか(笑)。
Nそう。そこで、彼(ライアン)にもっと思いきりメタルをやられることにもなっちゃうっていう。
――(笑)。
Nでも、それって僕達のバンドにおいてはでかい対立の要素なんだよ。毎日が闘いでね、彼はメタルをプレイしようとするし、でも俺達としては(語気を強めて)「冗談じゃない、ダメだ!」みたいな。
R俺はメタれる(低い声で)・・・
Nうん、ほんと彼はメタル野郎だから。
R俺は歩くメタルだ!
Nそう、メタルが好きなわけじゃないんだよ。彼はメタル(金属)。メタル製なんだ。
――(笑)。
Rでも、それだけじゃなくクラシック音楽もヒップホップも混じってるけどね・・・
Nでもまあマジな話、そういうこと。僕達も簡潔さを理解するようになってきたっていう。もちろんジャムるのは今でも楽しいけど、この作品に関しては短さが効いてるんだよ。
――今回のレコーディングでこれまでと何かが「違う」という手ごたえはありました?これまで以上にバンドとシンクロニシティあるいはコネクションを感じた、とか、あるいはやりやすいレコーディングだったとか?
Nまあ・・・要は成長してるってことなんじゃないのかな?
――ツアーを重ねることで、お互いをよりよく理解してプレイしやすくなった?
Nまあ、間違いなく僕達の間でだけ通用する共通言語、それは成長し続けているよね。僕達はお互いの出す音をすごくよく聴いているし、とても注意深く耳を傾けてる。この間他のバンドでプレイしたんだけど――まあ、そのバンドが誰とはここでは言わないけど・・・
R(すかさず)フィル・レッシュ&フレンズ。グレイトフル・デッドのフィル・レッシュね。
N(苦笑)うん。で、気付いたのが・・・いや、彼らは本当にグレイトなバンドなんだよ。だけど、果たしてメンバーがそれぞれ、他の連中が出してる音にどれだけちゃんと耳を傾けているのかな?って点に関しては、僕もあんまり定かじゃなくてね。だからまあ・・・カーディナルズ以外の他のバンドで長いことプレイしてみて、その上でこのバンドに戻ってくると、こう、感謝の思いが湧いてくるんだ。カーディナルズの連中が全員、ステージ上でどれだけ他のメンバーの音にまで心を配っているか、そのなんというか、彼らの繊細な感性にね。ほんと、自分達はなんて素晴らしいバンドなんだろうって思うよ。
Rだから、僕達はすごく真剣にやってるってこと。
Nもちろん笑いもあるけどね!
Rで、うん、一種の対になる言語を使って対話しているし、それに僕とニールの間では、言葉なしでも通じる何かがあるっていう。それはナイスだし、僕達の間に競争心みたいなものは存在しなくて・・・ふたりは同じものを追求しているんだと思う。以前も話したことがあるけど、ギターでどんなインタラクションをやろうが歌でふたりが何をやろうが、結果として僕達が求めているのは似たようなことなんだ、っていう。僕達は、だから・・・あらゆる瞬間を輝くものにしたいし、そうやって前に向かっていきたい。僕は・・・僕達はそこに強い誇りを感じていると思うし、とにかく僕はそうだな。ひとつひとつの瞬間に心を傾けて、そしてそれらの瞬間を永遠に続くものにしていきたい。
N音のひとつひとつをね。
Rあらゆる瞬間を永遠って風に感じれるようにしたいし、脆さ、強さ、弱さといったすべてが、それこそ生のダイナミズムがそこにあるって意味で完璧なものにしたいんだ。僕はそういった部分を曝け出していくのはいいことだと思うしね。筋が通ってるよ。
――そこまでやろうとすると、ステージに上がることがプレッシャーになることはないんですか?
Rそれはないよ!
Nノー、そうじゃない。プレッシャーは感じないって。
Rステージではそよ風に乗ってるようなものだよ・・・。
Nミスしたって全然いいんだよ。こっちはユーモアのセンスが常にあるしね!
R僕達は同じセットを繰り返したことは一度もないし、同じ風にプレイしたことだって一度もない。いつだって即興の要素があるし、バラードをロックにプレイすることもあれば、その逆をやる晩もあるっていう。
Nだから、僕達の演奏にはユーモアも相当含まれているんだよ。もちろんシリアスに、一音一音真剣に受け止めているけど、そればっかりじゃなく、音楽の中でユーモラスなやりとりも行なわれている。だから、お互いの演奏を見守りながらも、誰かがふいっと音楽的なジョークをかますと他の連中がそれに反応してって調子だし、すべては・・・ごくライトな心持の中でやっていることだっていう。そうであるべきだしね。ってのも、要はロックなんだしさ!
Rうんうん。
――いや、たとえばフジ・ロックの時・・・
R(即座に)あれはひどかった!
N(苦笑)。
Rあの時の自分は・・・恋愛面で諍いの真っ最中でね。それと、ヘロインで具合がおかしかったっていう。
――はー、そうだったんですか。
N(苦笑)。
Rっていうのも、飛行機旅の後で・・・あの時点ではまだ、自分がジャンキーだって自覚がなかったんだよ。だから日本行きの飛行機に乗って、クスリにアクセスできない場所に行ってみて初めて、自分がドラッグに依存してる状態だと気付いたっていう。だから、その時点でもうすごく体調がやばい状態になってたし、しかも山に向かう間に乗り物酔いも起きて、胃が空っぽだったっていう。
――ダブル・パンチだったんですね。
Rそう。で・・・当時付き合ってた女の子とも恋愛面でゴタゴタしてたし、彼女も同行してたんだよ。で、それこそライヴの始まる直前って時に、彼女が他の男とイチャイチャし始めてさ。要するに、考えうる限り最悪のシチュエーションに置かれてしまったっていう。
N・・・それってたぶん、カーディナルズとしての今をジャッジするのには向いていないショウなんじゃないかなぁ(笑)。
Rうん、でもあれは素晴らしくダメなショウだったんだよ。
Nアッハッハッハ!
Rあれは本当にもう、「決定的」な場面だったんだよね。要するに、自分って人間はどれだけ最悪に物事を派手にブチ壊しにできるか、っていう。
――(苦笑)。
Rだけど、あれに関しては自分を許すことにしたんだ。
Nそれにまあ、どうせブチ壊しにするんだったら目いっぱい、他の誰にもできないくらい徹底してやった方がいいしね。
Rいや、でも、あの瞬間を体験するのは自分にしてみればすごく重要だったんだ。っていうのも、あれがあって「自分はクスリのせいでおかしくなってる、病気だ」って気付いたし、変化が必要なんだと悟った。自分はこのままだと・・・もしかしたら・・・・・おしまいかもしれない、もう生きられないって自覚が生まれたっていう。
――なるほど。というか、あなたはライヴに全力を傾けすぎるから、それが過剰な負担になって自爆しちゃうのかな?とあの時は解釈したんですが。
Nああ、それは確かに起きることだよね。
Rうん・・・で、あの時はその上雨が降って雷もって具合に天候もやばくなってきて、なんかこう、「この世の終わり」みたいに自分には思えてきて。
Nクハハハッ!
Rいや、でもまじな話体調も悲惨だったし、あの2、3時間というもの本当に「これで終わりだ」って感じだったんだよ。「もうだめだ、死ぬ!」みたく思ってたっていう。でもほんと、自分がバカだったんだよな。鎮痛剤を持ってくれば良かったのに、自分にその必要があるって自覚してなかったっていう。
Nまあ、それはもう過ぎた話だろ。今は今だから!
――ええ。あなた自身、クリエイティヴな意味で活性化したと思います。
Rうん。3年・・・クスリから足を洗ってもう3年近いけど、ある意味クレイジーに思えるしね。っていうのも、今の自分の方がもっともっと、クリエイティヴ面での本能的な衝動にシンクロしてるから。で、もっと創作に対してエキサイトできるようになったっていう。今の自分は、本当に他の人間って怖いもんだなと感じるようになったし・・・要するに、人付き合いの面で不安を感じるくらいなんだ。そうしたものをどれも極端なレベルで体験してきたし・・・だから今の自分は、他人と飲み歩いたり他の人間とつるんだりってこともしないんだ。それで全然大丈夫。むしろ、実際そういう孤独な状態をエンジョイしてるくらいだしね。ほとんどの時間をひとりで過ごしているし、そこで音楽を作って。で、それが済んだら家に帰って、そこでもまたひとりになって、映画を観たりして過ごしてるっていう。
N(クスクス笑っている)
Rで・・・いずれは自分は山積みの本の下で息を引き取るだろう、と。でも、バンドとジャムれるのはクールだよ。
――なるほど、今のあなたにとってカーディナルズは一種の防護壁であり、また世界と通じるためのドアみたいな存在だ、と。
Rまあ、それよりはもっとお互い依存し合ってる関係だと思うけど。
N(苦笑)。
Rでも、彼らのことは本当にすごく好きだし、全員が変わり者だからね。みんなそれぞれに他のちょっとした世界を持ってるし、おかしな面もある。だからある意味、そうやってお互いにバランスを取り合ってるっていうのかなあ?僕のパーソナリティは・・・僕のキャラは、カーディナルズの4人と一緒だとすごくうまくハマるんだよ。
Nそうそう!
Rたとえば僕を抜きにするとか、あるいは4人のうちの誰かひとりが欠けても、僕達はハッピーになれないだろうっていう。チームとしてね。だから、それそのものだと機能しないかもしれない僕のパーソナリティが、バンドという文脈の中だとこのバンドをこのバンドたらしめるものにしてるっていう。だから、僕がこのバンドの一種の強みでもあるんだよ。
Nそれはその通り。
R僕の私生活だったり、あるいは他のシチュエーションでは、僕みたいなキャラクターの存在はネガティヴな結果を生むんだろうけどね。だから、ある意味グレイトっていうのかな、このバンドは、幸せな出会いから生まれた結婚とでもいうか・・・っていうのも、この世界では誰もが異なる存在なわけだし、そんな中で僕は僕なりに「自分が噛み合う」もの、バンドを見つけることができた、そんな感じだから。少なくとも、そこの面だけは大丈夫、うまくいったっていうね。ってのも、今後自分には絶対ガールフレンドが見つからないだろうと思ってるから。いや、それでもOKなんだ。それに、恋人の面を除けば、すべてちゃんと自分で完全にコントロールできてるし。
N(やや同情した調子を装って)ねえ、頼むから彼に誰か恋人を見つけてあげてよ・・・
Rいや、それは絶対あり得ないから。
――あなたのファンの友人を山ほど紹介しますよ!(笑)
Rあ、でも君にまじめなお願いがあるんだ。その質問表、すごくきれいに日本語で書かれてるよね?それって・・・たとえば「ウルトラマン」って書くのと同じ?
――ええ、日本の文字です。
Rそうなんだ。ね、「Cardinals」を日本語で書くとどうなるか、見せてほしいんだけど。
――OKですよ(ライアンが差し出したポスト・イットに片仮名で「カーディナルズ」と書く)
Rわー、すごくクールだあ・・・。
NこれでTシャツ作ろうぜ。
Rきれいだね~(とうっとり見詰める)。
――では時間もなくなってきたのでそろそろ最後の質問に・・・
R(遮って)ねえ、日本の人達、あの悲惨なライヴのせいで僕のことを嫌ってると思う?
Nそれはないない!日本人はみんな寛容で、許しの人達だからね。心配するなって。
――そうそう。大丈夫ですよ!みんな「きっと何かトラブルがあったに違いない」って理解してますから。根に持ってる人はいないと思います。
Rほんと・・・あんなことになってしまって、我ながら最悪の気分だったんだ。あの頃の自分は最悪な生活を送ってたし――
――人生最低の時期だった、とか?
Rうん、最低の時期のひとつだったのは間違いない。あれはほんと、とことんダメになりかねない時期だったしね。でも良かったんだよ、悪い時があれば、そこから良くなっていくわけだし。だから、また(日本に行く)チャンスをもらえて、きちんと仕切り直させてもらえればいいなと思ってるんだ。カーディナルズは今まったく別のバンドだしね。でもあれが皮肉だったのは、僕は日本のカルチャーにすごく感動したし・・・ほんと、根本的なところで心を動かされたんだよね。だから、ある意味(ライヴの失敗は)僕にとっては敗北だったっていう。たとえば僕の家には、日本の猫ロボットのレプリカだの日本映画のビデオだって山ほどあるし・・・ほんと、日本でコンサートをしくじったのは最悪な気分だったんだ。たとえばロボットだとかおもちゃにある日本の職人的な技とか、ほんと僕は大好きだからね!まあ、ご存知のように僕はちょっとしたオタクだから、そういうものには目がないんだよ。だから、あの経験は我ながら「何やってんだ」って感じだった。
――そういう重要な時に限って物事をポシャらせてしまう、ダメにしちゃう傾向が自分にはあると思います?
Rまあ・・・そこまで白黒はっきりしたものではないけど・・・何かちゃんとやらなくちゃいけないって場面になると、僕は大抵真っ先に先陣を切るタイプだからね。その意味では自分はかなりやり手のビジネスマンだと思ってるし、そういう事柄は割りとちゃんと対処できてる方だと思う。でも、パーソナルな面で自分が自己破壊的な人間か?と問われれば、その答えはNO。僕は意識的に色んなことをやってるし、恐らく自分は・・・たぶん自分は、自分の考えを深く投影し過ぎない時の方がベストな結果を生めるんだろうね。だから、僕にしてみれば何かに向かう時の過程はそれほど頭の中でぐるぐる考えまくるようなものじゃなくなってきたし、理想主義だの瞑想といった超越的な物事も好きだっていう。要するに、その瞬間瞬間に感じた事柄を道しるべにして、そこに任せるっていうか。まあ、その点を理解するまでにはかなり時間を費やすことになったけどね。水みたいな形態になる、要するにいちばん抵抗のない、無形の存在になるってことは。そういうのって、未熟で若い男だとまだ理解していない事柄だし、彼らは大変な苦労を重ねてそれらを学ばなくちゃいけないっていう。で、それを理解することでもっといい状態に達することができるというか・・・もっと人間としてまともな、生きていく上でも、働いていく上でもちゃんとした場所に辿りつけるっていうね。自分はそうしたドアの数々を乗り越えてきたと思っているし、もちろんこれから、もっときつくてもっと巨大なレッスンを人生において学んでいかなくちゃいけないとは分かってるけど、少なくとも今の自分は、尊厳をもって敗北を認めるってことを理解していると思うよ。
――ニールは、ライアンがそうしたトラブルに巻き込まれていた時どう思っていました?
R(やや不満げに)でも、僕はその時にはもう素面だったんだけど!
Nうん、僕は「Cold Roses」じゃなく、あのツアーの終わりの方でバンドに参加したから。
――あ、失礼しました。
Nうん、いいよ気にしないで。
R一番ひどい時は見てないよね。
Nうん、僕が参加したのは・・・「Cold Roses」の終わりの方で、2005年くらいだったかな、でも「JCN」リリース時にはその場に居合わせたっていう。
Rあれはもう、色んなものが終わりを告げてた時期だったよね。バンドのオリジナル・ラインナップが崩壊して、僕の長い恋愛も終わって・・・で、長いこと続いた僕の(ドラッグ)使用も終わりを告げて。
Nうん。だから、僕がバンドに参加したのは様々な物事に決着がつきつつある頃合いだったんだ。色んなものは見たし、それに彼がそうした経験を潜っていた状態は確かに何ヶ月か目にしたけど・・・でも、あれは僕にしてみれば奇妙な経験だったね。というのも、僕はライアンを以前から・・・まあ「よく知っていた」とまでは言わないけど、ずいぶん前から知ってはいたんだよ。だから、彼のことはある程度知ってたわけで、僕の登場はいわば、古い友人が久々に現れた、みたいな状況だったっていう。で、そんな中で僕は彼がすごくきつい時期を潜っていく姿を見守ったっていうね・・・でも、僕には不安はなかったよ。僕はただ・・・・・・自分にできる限り強い人間でいようとし続けた、それだけで。
Rでも、僕はドラッグでしょっちゅう手に負えないってわけじゃなかっただろ?
Nうん、それはなかった!それで「毎日が苦労の連続」なんてことはなかったし、とにかく彼はなんらかの苦しいフェーズを越えようとしているんだなってこと、それだけは分かってた。
R頻繁にやってたっていうより、むしろあの時期の自分の問題ってのは、1回で服用する量がどれだけかってことだったんだと思う。常用っていうより、1回に食うクスリがまかり間違えば致死量になりかねなかったっていう。だからある意味、あの時点では「当たるかもしれないし外れるかもしれない」みたいな、ロシアン・ルーレットめいた賭けだったんだ。だけど幸いなことに僕の身体は耐性が強くできてるから、そういう状況でも持ちこたえることができたっていう。それに、他にもっとタチの悪い行為に走るってのもあり得たけど、そこまではいかなかったしね。それこそ、盗みだとか誰かに対して謀を巡らすってレベルにまではいかなかったし、そんな風に頭まですっかりやられるところまではいってなくて、とにかくハイになって、ちょっと現実からハミ出して、そこで曲を書いていられれば自分はそれで良かったんだ。でも、そこにもすごい落とし穴はあってね。それってドラッグから離れて素面に戻っていくプロセスのことなんだけど、脳髄の配線をそれこそ一からやり直すことになって、でもそれも何度も不発に終わって、「いったいどうしちゃったんだよ俺?!」みたいに苛立ちを感じて・・・身体の反応もめちゃくちゃだったしね。ほんと、あれってハイでいる時よりもずっときつかったかも。他にもおっかない場面は色々あったけど、ODに関してはプライヴェートに抑えておけたし。
Nだからまあ・・・どっちにせよ僕はライアンと一緒にいたと思うけど、それでも彼がそういうフェーズを経てくれて良かったなと思ってる。悪いことに彼は歯止めをかけたんだし、それ以降物事はいい方向に進んでいるから。
R頭にガツンとくるような何かが起きたら、それに従わないと。
Nその通り。そうすることで素晴らしい報いも生まれてくるわけだし・・・まあ、だから僕個人としては彼の問題に関して特に言うことは何もないっていう。
R(半ばひとりごとで)不思議じゃない?そうした色んな出来事の奥には、間抜けがひとりいだけだったっていうさ・・・。
Nだから、あれは彼個人の抱えるパーソナルな問題だったし、もちろんそれを目の当たりにして僕なりの考えも色々生まれたけど、その問題そのものを共有するのは僕には難しかったっていう。それに、彼は僕が参加する前からやばい状態になってたし・・・でも自分はその以前から彼のことは知っていたわけで・・・うーん、でもこの話は、僕にとっては今も話すのがきついな。ディープな事柄だからさ。さばさば話すのは難しい。
――分かりました。
Rそれに、僕達の友人の多くが、それと同じような体験を潜っていたんだよね。で、そのうちの何人かは脱け出せなかったし、一方でサヴァイヴできた者もいたっていう。
Nだね・・・っていうか、そこまで行くとまた別の話になるだろ!(苦笑)
Rうん。でも、それがこの話の胸が痛いくらい辛いところで・・・要するに、ものすごい損失に繋がりかねなかったっていうね。でも・・・そうならなかったから僕達はここにこうしているわけで。
Nそう、そうはならなかった。
Rうん、だから今のこの瞬間をこうして過ごせるのはそれそのものが祝福なわけだし、うん、グレイトだと思ってるよ。
――一部の報道で今後のアルバムは「カーディナルズ」名義になるとも聞きましたが、それは本当ですか。
Rん、でもカーディナルズにはならないと思う。それに近い名前にしたいし、カーディナルズって名前はキープしておきたいんだけど・・・そうだな、たとえばそこに何か加えて・・・「カーディナルズ・インコーポレイテッド(法人会社)」とか、とにかくカーディナルズにプラスαって風にしたいと思ってるんだ。でも、まだ適当な名前はまだ思いついてないんだよね。ただの「カーディナルズ」にしちゃうと、そういう名前のチーム(※アメリカのプロ野球チームにCardinalsがある)がもう存在するから。
Nうんうん。
Rそれに、バンド名よりももっと目立つバンド・ロゴがあるからさ。
――ああ、あのバラですね。
Rうん。だから、僕としては名義をすっかり変える準備は整ってるし、ファンも恐らくそんなに気にしないんじゃないかと思ってる。でも、そうなった場合僕達は自分達全員、5人にとって意味のある何らかの名前を考え付かなくちゃいけないっていう。だから・・・そうだなぁ、グールー(導師)でも探して、教えを乞うのがいいのかもしれない。
――(笑)。
Rいやー、マジな話だよ!誰か見つけて、その人間に尋ねるべきなんだ。
N日本に行ってグールーを探すのもいいんじゃない?
――日本のお寺に行ってお坊さんに聞くとかね(笑)。
Nそうそう、お寺行こうぜ!鎌倉、大好きだよ。
ライアン・アダムス「Cardinology」を脱兎チェック!
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