レディオヘッド新作後初フリー・ギグ(12時間マラソン:後編)
というわけで、やっとスタート地点に立てましたー。疲労と安堵の念、昂ぶる興奮が入り混じり実に妙な気分をBGM(=スペシャルズ)でじわじわ癒しつつ、次々入場してくる観客とステージを動き回るローディーを見守る。セット・リストがマイク脇に貼られ、「何曲書いてある?タイトルは知りたくないけど、何曲プレイするかだけ教えてくれ~」との後方のファンからの質問(通常のインストア・ギグのように3、4曲じゃないことを誰もが祈っていたんです)に、「10曲以上!15曲書いてある!」と最前列ファンが返してみんな相好を崩す。観客がすべて中に入ったところで、ほどなくして客電が落ち22:30過ぎにメンバー登場。ち、近!06年ハマースミス・アポロで観たライヴもレディオヘッドにしては小さい会場だったが(キャパ3000程度)、あの比ではない。彼ら自身、こんなクラブ~ライヴ・ハウスで演奏するのは100年ぶりじゃないだろうか?全員黒だの地味な服装なのに、コリンだけカラフルな80年代調Tシャツ(ワムTかと一瞬思った)で勘違いしたニュー・レイヴ野郎みたいなのが笑える。でも、よく見たらNO AGEのバンドTだったので許す。
観客から「ありがとう!」の声が矢継ぎ早に飛び、トム以下全員笑顔でポジションに立つ。とはいえ会場変更やサウンド・チェックのやり直しなど彼らにしてもストレスも多かったのだろう、演奏のキューが入るまで雰囲気は慎重でやや固い。「In Rainbows」曲をアルバム通りのシークエンスで演奏するはず・・・と察しはついていたが、1曲目はもちろん「15Step」。シャープ&パーカッシヴ、展開が抜群にドラマチックなこの曲はオープニングにもってこいで、前に出てきて手拍子を促すコリンにつられてお客もハンド・クラップ。力強いビートにフィルの力量を再確認しつつ、ギターが滑り込む鮮やかなブレイクで場内全体が気持ち良さそうに揺れ始める。音響がいつもいまいちの会場なので不安だったが、ナイジェル・ゴドリッチ本人がライヴのミキシングも仕切っているのだろう、ベースが時折りひずむ以外はどの音も実にクリアで盤の迫力と近さがしっかり再現されているのは脱帽。トムがギター(SG)を掴み、「Bodysnatchers」でスイッチが入る。屈強なリフを繰り出すジョニー、エド(素敵)のバンカラなプレイ、感電したように激しくシャウトするトムに向け観客が「It Is the 21st Century!」のコーラスを投げ返す。バンドも気分良さそうで、観ていてこっちも熱くなる。ダイナミックなプレイはもちろんロック・バンドの真髄でかっこいいけれど、「Nude」「All I Need」(深い&大合唱)などじっくり聴かせるバラッド曲も素晴らしかった。静かでミニマルな音(=爆音PAに頼らない、プレイヤーの地力で「間」も聴かせる楽曲)をライヴで精確に再現できるか否かはそのバンドの実力のバロメーターだといつも思っているけど、レディオヘッドは言うまでもなく一級。「Nude」はレゲエ~ダブなんだな。
にしても、「IR」の曲順/流れはライヴでもすごく映える。緩急の妙はもちろん、サウンドのトーンやビートの変化が自分の生理にすごくしっくりハマる。彼らが「IR」を楽曲単位ではなくアルバムとして聴いてほしいと願うのも無理はない、古典的なアルバム。男人気抜群(万国共通ですな)のジョニーの繊細なアルペジオに導かれ、「Weird Fishes/Arpeggi」。このイントロだけ10分プレイしてくれても自分的にはOK!と思えるくらいマジカルでヒプノティックなリフだ。エドもコーラスでがんばっていて(トムの美声にコーラス付けるのはプレッシャーだろうけど)、5人だけで「IR」をやろうとする、そのバンドとしてのプライド&人力を貫いてみせるところが彼らの魅力――というか、(ストリングスや子供合唱団を除き)バンドのパフォーマンスをありていにドキュメントした作品だった、ということなんだろう。演奏は既に水も漏らさぬタイトさだし、ビッグ・ステージに付き物の派手なライト・ショウやセットといった演出一切なしの今夜の〝ヌードな〟演奏はまるで彼らのスタジオに招かれてライヴを観ているよう。筆者にとってのハイライトは「Reckoner」(出だしでコリンがトチって、みんな失笑。リラックスした雰囲気が流れる)。ギター勢のミュートしたプレイはたまらなく美しいし、たとえば「Motion Picture Soundtrack」など彼らの楽曲にはたまに魂を吸い取られるような神がかった瞬間があるけど、この曲のさざなみのようにせり上がるミドルはまさにそれだ・・・ワープしました。「House Of Cards」のソウルフルなグルーヴに揺れた後、最新シングルだけに受けも良く一際ノリのいい「Jigsaw Falling Into Place」に突入。キャッチーなサビにお客は待ってましたとばかりに踊りまくりだし、バンドの勢い(コリンのノリノリぶりが強烈!基本的にクールなエドも、タンバリン片手にガウガウ吠えてる)も再びピークに。トムが一番好きな曲だと言っていた「Videotape」は、グリーンウッド兄弟がエフェクターを操る中、ミニ・キーボードの前にかがみこんだトムの独唱から静かにスタート。真冬の深夜に音もなく降り積もる雪が、なぜか脳裏に浮かんだ。
マナーのいいレディオヘッド・ファンだけに、「IR」全曲演奏以上の何かを求めてはいけない・・・という遠慮が働いたのか(?)、アンコールの声&喝采は割りと地味。しかし、長時間待ったファンに報いたいという思いもあったのだろう、トムがさらりと登場し、「今夜はもう(インストアどころじゃない)ライヴだから、もうちょっとやるよ」とアコギ1本で「Up On The Ladder」(嬉!)の弾き語りでアンコール開始。大喝采の中4人もステージに再び登場し、むむ、このキーボード・サウンドは間違いなく!「You And Who’s Army?」イントロだ。スパークルホースを思わせるこの曲は「Amnesiac」の中でも特に好きだし、ブラックな痙攣ユーモアを湛えたトムの演奏ぶりはいつ見ても笑える。コリンの怪物的なベース・ラインからいきなり押し寄せる「The National Anthem」に男客がうごぉぉ~~っ!と反応し(あのイントロで盛り上がらないのは嘘だ)、オーディエンスは再びダンス・ダンスの渦に突入。「My Iron Lung」「The Bends」のクラシック2連発で渦は更に加速、ジョニーのエネルギッシュなギター・ワークにキッズが陶酔&ジャンプ&「Where do we go from here?」大合唱の波を巻き起こし、この晩最大の盛り上がりが生まれた。ステージを去る前に、トムが前列のお客にめいっぱい腕を伸ばし可能な限りタッチ&握手していたのがとても微笑ましかった。
恐らく今回の一種のゲリラ・ギグはテスト・ケースで、アメリカや(願わくは)日本でも同様のライヴが行なわれるんじゃないかと思う。ロンドンのファンだけスペシャルな扱いを受けるのは、フェアではないから。もちろんそれをやるのは彼らのようにビッグなバンドにとって容易な話ではないし(一部の報道ではなんと1500人近いファンが集まったという)、騒音、クラウド・コントロール、治安面と様々なファクターが障害になってくる。ビートルズがアップルの屋上でライヴをやれた時代は、やはり遠い昔なのだ。しかし、1時間弱のライヴとはいえオーディエンスと直で接していこうという真摯な思いは十二分に伝わったし、小売店やレーベルを介さない「IR」ネット版リリース以降のレディオヘッドの新モード=intimacyを、口だけではなく身を持って実践したのはやはり評価に値する。今回の混乱を教訓に(苦笑)、次はぜひもうちょっと周到&念入りに準備して、世界のどこかでまたファンの手をじかに握ってほしい。00:12帰宅というわけで、長い1日が終わった。Special Thanks:Shoko&Sean
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